わあ、と歓声が上がる。
午後九時の駅前はイルミネーションが眩しくて、高級そうに陳列されたショーウインドーの靴やバッグをきらびやかに飾り立てていた。黄色い長靴を履いた子供が空を仰いで、同じ色の傘をいっぱいに突き立てる。そうして、隣りにいる母親に嬉しそうに話しかけた。
「おかあさん、ゆきだよ」
氷交じりの雨には気付いていた。子供の声に急かされて首を軽く持ち上げると、ショーウインドーの照明とイルミネーションを映して暗い空までも華やいで輝いて見えた。
つもる?子供が笑う。母親も、積もるかもね、と同じように笑った。自分の吐息と、イルミネーションに染まる雪が親子を彩った。
トートバッグから携帯を取り出し、かじかむ指でキーを叩きながら雪の当たらない小さな屋根の下まで早足に歩く。そういえばまだ返信していないメールがあったのを、目で追った一つの雪がコンクリートに溶けた瞬間思い出した。
『もしもし』
『あぁ』
『どしたん、ユウ?』
寒い部屋と電気ストーブ。田舎の一室にしては上等な。
主だったリフォームがなければ、ラビの部屋は容易に想像できる。西向きの椅子の背もたれに体を預けて、ラビは笑った。
『雪降ったろ』
『降ったさ、さみいもん』
『あぁ』
右手で携帯を握り締め、吐息を吹き掛けた左手をダウンのポケットの中で力一杯握り締める。ぼんやりと霞む息を見ながら、故郷の冬を思った。
『東京はどう?』
『今降り始めた』
『へぇ…会いたいなあ、ユウ』
まるで呼吸か、それとも拍動のようにさらりとラビがそう言った。正月には帰郷する予定だったが、飛行機のチケットを取り損ねてそのままになっていたのだった。
『ラビ』
『なんさ?』
ポケットの中の手を取り出して、また息を吹き掛ける。小さく深呼吸をするように、今度はやや深い息を。
恋人同士の台詞をラビのように、つまりそれが、生まれ落ちたその瞬間から身体に馴染んでいるように、何でもないように言ってみたかった。
『ラビ、』
初雪が降ったら、言うつもりだったんだ。
「愛してる」
お前が俺にそう言ってくれたのも、三年前の初雪の日だろう?
馳せる
『馬鹿だなあ』
あの日の俺の真似をして、同じようにラビは笑った。