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□いたずら
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寝起きというのはどうも気が入らないものだ。
まだ脳が覚めきってないのだから仕方ない。
コーヒーを飲む、シャワーを浴びる。人によって覚ます方法は様々で。
森田にとっては学生の頃からの習慣がそれだ。

ぼさぼさな髪を後方で一つに纏める。
髪全体が引かれる感覚にぼんやり眠気を帯びていた頭はいくらかすっきりした。
ぐっ、と伸びをする。
同時にぶちりと後ろから聞こえた。



「おはようございます」

一瞬、ソファーで座る男に銀二が固まった。すぐに森田だと理解して返事をしたけれど。
森田が先に読んで置いていた新聞を座って広げる。森田は森田でテレビを眺めて。
暫くの間静かな時が過ぎる。
一通り記事に目を通した銀二は新聞を元あったように畳みながら、髪、と呟いた。

「今日は結ばないのか?」

「結ぼうとはしたんですけどね。ゴム切れちゃったんです」

他にゴムなくて。そう言って苦笑する森田にそうか、とだけ返して銀二もテレビに視線を向けた。

「コーヒー飲みます?」

「頼む」

コーヒーを入れに立ち上がる森田を見て、どうしても違和感を拭えずに眉間に皺を寄せる。
夜は別として髪を解いている姿はどうも見慣れない。

「はい、どうぞ」

置かれたコーヒーを一瞥して森田を見上げる。
すっ、と腕を伸ばして簡単に髪を纏めあげた。

「えと、銀さん?」

「…うん」

戸惑う森田を無視して銀二は満足して頷く。
やっぱりこっちの方がらしいと思った。

「ゴム、ないんだな?」

確認してから待ってろと部屋に戻るのを見送って、森田は座り直して銀二を待つ。
すぐに出てきたその手にはなにかを持っていて、どこか機嫌が良さそうで。

森田の後ろに立つと再び髪を掴んで、普段結んである位置に纏めようとした。けれど。

「…どうなってんだ?お前の髪」

中々定一にならない。
それどころか一つに纏めることすらできない。
何度やってもうまくできないことに諦めて手を離した。

「纏めろ」

はぁ、と森田は手慣れた手付きで髪を掴む。
手櫛でどう見ても適当な仕草なのに森田がやると、まるで法則でもあるかのように綺麗に纏まった。

自分が散々やってできなかったことを易々とやってのけたのに感心しながら結んで、

「よし」

満足そうに笑った。

「このゴムやるから明日から代わりに使え」

「いいんですか?」

「ああ。元々お前のために買ったものだしな」

ゴムが切れた時ついてないと肩を落とした。

邪魔で結んでいたのに除けることができなくなって、今日一日煩わしい思いをするのかと思った。
しかし実際はむしろ予想とは逆で。

「ありがとうございます!」

喜びを示すようににっこり笑って礼を言った。

「もうすぐ迎えがくる。さっさと用意しろ」

「はい」

今日は一段と気合いが入る。
そう思いながら森田は軽い足取りで自室に入っていった。




おまけ


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