fkmt

□昔の話
1ページ/1ページ



取調室というのは逃げられないように奥まった場所に配置され、暗くてじめじめしているもので。
パイプ椅子に腰掛けて煙草を吹かして出入口が開くのを待っていた。
ちょうど一本吸い終わって揉み消している時、バン!と勢いよく見知った若い刑事が入ってきた。


「またお前か」


呆れたと言わんばかりに刑事は頭を抱え男の正面に座った。


「今日はなにやらかした」


「別に大したことしてないですよ?ただ運転してただけで」


にっこり笑うチンピラ風情の男、平井銀二は警察に捕まっているというのに余裕綽々の態度を崩さない。
強がりでもなんでもなく慣れてのだ。警察署で取調を受けるということに。


「無免許でってわけか」


「うん」


気に留めることなく平井は頷いてみせた。


「お前なぁ…。毎度毎度つまんねぇことで捕まったからって、わざわざ俺を指名するな!」


「別に指名なんかしてないよ。ただ周りの警官が勝手に安田さん呼ぶから」


普通ならそうないのだが安田の場合偶然も重なって平井が捕まる度に取調に回されて。
いつの間にか平井担当と警察内部で公認になっていた。


「ね、安田さん。どうせ留置所に二、三日入れるだけでしょ?見逃して?」


俺忙しいんだ、と続ける平井に安田は深くため息を吐いた。


「いくら留置所行きでも見逃せるか」


安田は刑事として全うなことを言ってのける。
警官特有の正義感からではなく、単に見逃した後の手回しが面倒なだけなのだけれど。


「代わりに安田さんの知りたがってた組の情報あげるから」


「はあ!?お前あの組のことなにか掴んだのか!」


間に挟まれていた机に手を置きガタッと立ち上がって詰め寄る安田に、平井はうんと頷く。


「一体どうやって!」


「んー…強いて言うなら人望だよ、じーんぼ」


足を棒にして走り回ってもほとんどなにも解らず仕舞いで既に諦めてかけていたのに。
突然舞い降りた探し求めていたものをちらつかされて安田は一瞬考えて、わかったと返した。


「うん、安田さんの賢明なとこ好きですよ。たかがチンピラ捕まえるのとは功績比べものにならないもんね」


「チンピラの情報信じるのが賢明とは思えないけどな」


「まぁね。あ、ついでに今警察が追ってるヤマの資料ちょうだい?容疑者名簿だけでいいから」


ね?と小首を傾げる平井に内心驚いた。

警察の情報をこうもしっかりと把握して、尚且つ交渉にまで持ち出すなんて。
内部に平井と通じている人間でもいるのか。いや、それならわざわざ自分と交渉する必要はない。
なら平井のいう人望のおかげか、それとも腕のいい情報屋でもいるのか。

どちらにしても平井はそこら辺のチンピラとは違う。
それは今までの付き合いでわかっていたことだし、安田が平井の情報を信用する理由だ。


「…はぁ。わかったよ」


「ありがと安田さん。じゃ、あとでまたくるよ」


手を振って慣れた様子で取調室を抜け、勝手知った警察署から出ていく。




この平井と近いうちに仲間になるとは、安田が想像しないまた別たの話。





End


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ