fkmt

□始まりのはじまり
1ページ/1ページ


――ガタッ

今なにが起きたのかより先に上にいる銀二の目の中に怒りが混ざっているのに気が付いた。
次いで感じた背中の痛みにようやくなにが起きたのかを理解する。

(押し倒されて、る…)

仕事から帰宅して会話もなくマンションに入って玄関のドアを閉めた。同時に後から入ってきた銀二に、後ろから押し倒されたのだと。
じっと見つめられ唾を飲む。ごくり、と厭に大きな音がした。

「ぎ、んさ…」
「よかったなァ、森田」

賞賛の言葉、ニィと吊り上がる口。それが笑わない目を際立たせた。
なにがと聞くのも憚れる雰囲気に森田は開けた口を閉じて思案する。
仕事は問題なく終わった、失敗なんてなかった。
サポート面でもなんらトラブルもなかったはずだ。
なのに、銀二の目には確かに、怒りが見え隠れしている。
なにがいけなかったのかいくら考えてもわからなかった。
静かに近付いてくるのに森田は反射的に目を閉じる。くちびるに感じた熱すぎるたそれは一瞬にしてすぐ離れた。

「大丈夫か?」

声と上から動く気配にそろりと見てみると、何事もなかったように靴を履いたまま佇む銀二が玄関に立っていて。

「え…あ、はい」

呆気にとられた森田は差し出された手を握って立ち上った。その横を通りすぎて銀二は先に靴を脱いで廊下を進む。
背中から感じ取れるのはさっきまでの怒りなんてものはなく、むしろ逆、機嫌のよさそうな姿だった。

「確か酒あったな。飲もうぜ」

そう振り返ることなく言う銀二に慌てて靴を脱いだ森田が続く。


頭の中は
(…意味わかんねぇ)
銀二への思いだけでいっぱいだった。




End


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ