fkmt

□強運再来
1ページ/1ページ



「それではお身体に気を付けてお元気で」


床に膝を付き崩れ落ちた男に皮肉を言い、銀二はその場を離れる。


若い強運の相棒が引退し、銀二も引退するなど噂が広まる中で。銀王は健在だった。

相変わらず抜け目なく勝ち続け、今回も見事勝利を納めた。


「順調だねぇ。銀さん」


部屋の外で待機していた巽が煙草を足で揉み消し銀二の隣に並ぶ。

森田が居なくなったあと銀二が落ち込むことはなかったが、やはり心配で。
そのため変わり無い姿にどこか安堵を込めた台詞だった。

けれど銀二は苦笑する。


「そうでもねぇさ。今回もギリギリだ」


銀二の言う通り今回の仕事は何度も危うい目にあった。
しかし勝ったのは紛れもない事実で。


「けど勝ちは勝ちだ」


「…あぁ。そうだな」


最近の、それも300億の競馬勝負以降の銀二の勝ち方は全てギリギリ。

それが定着していると言っても過言ではないほどに。


銀二自身そんな勝ち方に内心嫌気がさしている。
だが灰になるまで勝ち続けると決めた以上、わざわざ負ける気も引退する気もない。


「今日はもう帰るのか?」


「あぁ。後始末は安田に任せてある」


運転席に乗った巽に続き、銀二も後部座席に乗った。


ネオン街を走る車の中でぼんやりと銀二は外を眺める。

信号の前で緩やかに止まった車から見えたのは、反対側の路地を歩く大勢の人間。

その中に見付けたスーツを着た長髪を一つに纏めた青年の姿。
昔よりまた幾分か顔つきも良くなっていて。


「…くく」


つい漏れた笑い声にバックミラー越しに巽が不思議そうに見る。


「どうした?銀さん」


「いや。なんでもねぇ」


とは言ったものの治まらない笑みを隠すように、銀二は煙草に火を点けまた外を見る。

同時に動きだした車からはもう森田は見えなかったけれど。





End

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ