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□神域と銀王
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銀王こと平井銀二が仕事から帰宅して、鍵穴に鍵を差し込む。
カチャッと小気味よい音をたてながら鍵を回し扉を開ける。
が。今開けたはずの鍵が閉まっていて、扉が開くことはなかった。
「…?」
銀二は不思議に思いながらももう一度鍵を差し込み、今度こそ開ける。
鍵穴には無理矢理開けられた形跡はないものの、出掛ける時に閉め忘れる等の愚行を犯すはずもない。
一応慎重に音をたてないよう気を付けながら部屋の中に身体を滑り込ませ様子を窺う。
すぐさまリビングに人気を感じ向かう。と、そこにはまるで我が家だと言わんばかりに堂々とソファーに座り寛いでいる赤木しげるが居た。
「ジャマしてるぜ、銀二」
急な予想外の来客呆然とした銀二に気付いた赤木は笑顔で片手を上げる。
その声で我に帰った銀二は安堵のため息と共に、肩の力を抜いた。
「はぁ…。お前どっから入った?」
「あ?玄関からに決まってんだろ」
言って鍵を見える高さまで持ち上げにやりと笑う。
合鍵を作った憶えも、ましてやそれを渡した覚えもなかったが、あえてそこは何も聞かずに銀二は頷いた。
「ところでよぉ」
鍵を置き、赤木はけだるそうに声を発する。
銀二は冷蔵庫から酒を取り出しながら続きを待つ。
「腹へった」
「いつから食ってない?」
「…三日前?」
もはやいつからか憶えてないのか疑問系で返してきたことに、今度は呆れたため息を吐く。
「そのうち倒れるぞ」
「わざわざ食うのめんどくせぇんだよ。ってわけで、ふぐ刺しくれ」
さも当然のように言う赤木の隣に座り、グラスの中の酒を煽る。
「ちゃんと見返りやるからよ」
「…てめぇ。今まで何度そうやって代打ちの話すっぽかしたか、わかってんのか?」
銀二の言葉にくつくつと笑い、グラスを奪って一気に飲み干す。
「誰が代打ちっつった?身体で返してやるよ」
銀二に寄り掛かり、首筋に酒で熱くなった吐息を吹きかける。
珍しいことに銀二は内心驚きながら、顔に出さないように笑む。
銀王と神域の夜は始まったばかり。
End