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□蜂蜜
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「急に悪いね」

二人の悪。銀二と伊沢が会合し、互いの利益のため今後を話し合う。
高級ホテルの最上階という絵柄が非常に似合う二人は一通り話し合うと、一息吐くため銀二はコーヒーを入れた。
普段はワインでも開けるものの、この後も仕事がある伊沢に合わせたのだった。

「どうぞ」

コーヒーカップを受け取ると、伊沢はテーブルに置いてある小瓶を開けなにかをスプーン一杯分を溶かし入れた。

「…蜂蜜ですか?」

特有の香りに気が付いた銀二が問い掛ける。

「最近忙しいからね。少しでも疲れが取れるようにと思って。銀さんもどうだい?紅茶に入れても合いますよ」

「そうですね…」

曖昧な返答をし、銀二はコーヒーを一口飲み込んだ。



「銀さん、紅茶入れましたよ」

ソファーに座る銀二の元に森田が二人分のティーカップを持って行く。

「そこの容器取ってくれ」

カップを手渡し、銀二が指差した物を取りに戻る。

「はい」

「悪いな」

蓋を開けなにかを入れるのを不思議そうに見つめる森田。
とろりとした蜜状のそれに気が付き声に出した。

「はちみつ?」

「あぁ。伊沢さんに紅茶と合うのを教えてもらってな。案外香りが合うんだ」

幾分か気に入っているようで、機嫌が良さそうな声の説明に容器を覗き込む。

「へぇ…。でも甘くなりません?」

「ふふ。舐めてみろ」

ティースプーンではちみつを掬い、銀二が口元に近付ける。
森田は一瞬迷ってからそれを口に入れた。

「…あんまり甘くない?」

舌が痺れるような甘さを想像していた森田は、予想外の甘さに首を捻る。

「だから紅茶に合うって言ったろ?」

甘味より香りを重視されたものらしく、口の中に香りが広がった。

「うまいですね。これ」

「だろ?あ、森田」

指で屈むように指示され、ソファーに座る銀二に目線の高さを合わせる。
と、ほぼ同時にネクタイを引かれ口元に付いていた蜂蜜が舐め取られた。

「ん…甘いな」

してやったりと言いたげな笑みを浮かべ、ネクタイを引いたまま銀二が呟く。

「…不意討ちはずるいですよ」

森田は照れたように困ったように苦笑をしながら、銀二の両脇に手を置いて。
今度は自ら口付けた。

微かに蜂蜜の香る唇に。




End


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