お題・他

□銀金
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パリ、パリ、
サク、サク、
部屋いっぱい広がる懐かしい匂いに、昔を思い出すより、この人達が駄菓子を食べてる光景に驚いた。
顔より一回り小さい巨大なピンクのせんべいにかじりつく悪党なんざ、イメージがわかない。
なにしろそこらにいるチンピラなんてもんじゃなく、一夜で億単位の金を稼ぐ、それもオッサン達が顔を並べてだ。
俺が銀さんに買い出しを頼まれて中々目的の物が見つからなくて、少し遠い店まで向かって帰ってくるまで一時間弱。その間になにがあったかはわからないけど、俺と銀さんの二人だった部屋に巽さん達がきていることは事実だ。

「ん、おひゃえり」

巨大なせんべいの端を口で挟んでむぐむぐ食べながら銀さんが俺を見た。

「はあ…」

一番この光景が似合わない人が一番あたりまえみたいにしているもんだから、ついポカンとして頷いてしまった。

「お前も食え!」

巨大な袋から巨大なせんべいを取りだして手渡してきた安田さんが、二枚目に豪快にかじりつく。
バリンと小気味いい音が響いた。




パリ、パリ、
サク、サク、
大きさの割に軽くて薄いせんべいが口の中に消えていく。
よく食べてた頃はなんとも思わなかったけど、改めて見るとこんなものにも個性があることを知った。
銀さんがせんべいから口を離さないで食べるのなら、巽さんは普通にかじりついて、安田さんは妙に音をたてて、船田さんは一度一口大に割ってから食べる。
いやに合うそれぞれの食べ方に吹くと、目聡い安田さんが俺の肩に腕を回してなに笑ってんだ、とにやにやした。

「なんでこんなに量あるのかと思って」

なんとなく違うことをいってみる。一袋をみんなで食べているのにたぶん、一人一袋分は食べたにちがいない。

「買ったからに決まってんだろ」

「買ったって…安田さんが、全部?」

あっけらかんと頷くのを見て、コンビニで大量にこれを買う悪党を想像して腹を抱えて笑う俺に、安田さんがハンマーロックをかけるのは目前のこと。




End


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