お題

□いらない。なにも
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左目の下の切り傷。
左手の指の接合の跡。
左の二の腕の焼印。

到底一般人には見えないその全ての傷痕が、一番最初に俺の狂気を惹きつけた。




「ねぇカイジさん」


無造作に伸ばされた髪を一束手に取って弄ぶアカギに呼ばれ、カイジは夕飯作りを一時中断して振り向く。


「なんだ?つーか料理中に纏わりつくな」


危ないから。と言い加えながら髪をつまんでいる手を振りほどく。

アカギは特に気にした風もなく続ける。


「俺、カイジさんの傷好きだよ」


狂気じみてるから。という言葉は口の中に留め、カイジの左手を取る。

そのまま傷に口を寄せ、小さくチュッと音をたてて口付けた。


「なっ…」


急なことに一気に顔を真っ赤にして照れるカイジに、アカギはにやりと笑みを浮かべる。


「俺、カイジさんの傷好きだよ」


そして繰り返す言葉。

狂気に狂気を惹かれ。どんどんその狂気の持ち主に惹かれていき。今ではカイジ自身に限りなく心を奪われ。

アカギはその事実に滑稽だと自嘲する。

その間にも傷一つ一つに口付けを続け、一通り終えた後漸く手を放す。


「なにもいらない。だからカイジさんを頂戴?」


殆ど無意識に出た想い。

自分を惹きつけた狂気の傷痕も否定してカイジを欲する辺り、ずいぶんのめり込んでいることに気付いてアカギは自嘲とはまた違う笑みを浮かべていた。





お題提供
蝙蝠商店様.

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