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□とある午後
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「ぎんさーん」
気の抜ける声で恋人の愛称を呼んでその肩に頭を置いた。ソファーで膝に乗せた銀二を後ろから抱き締めるような形で座る森田は至極幸せそうだ。
「んー」
森田の声に合わせるように銀二の声も柔らかく答える。肩と背に感じる温もりにこちらも幸せそうで。
「銀さんぎんさん」
「もりた、何回呼んでも俺は一人だぞ?」
「呼びたいだけだからいいんです」
腕の中の存在を確かめるように森田はまたぎんさん、と口に出した。
「あー、銀さんだ」
「ああ。銀さんだ」
銀二が楽しそうにふっと笑う。
森田が嬉しそうに頬を緩める。
「もりた」
「なに?ぎんさん」
「呼びたかっただけだ」
そう、と小さく返した森田はまた名前を呼び、銀二は返事の代わりに名前を呼ぶ。しばらくそれだけの会話が続いた。お互いの存在を確かめあうように毎回噛み締めて呼びあった。
「ね、ぎんさん。あとで一緒に買い物ついでに散歩しよ?」
耳をくすぐる森田の声と窓から覗く柔らかい日差しに、銀二は目を細めてうんと頷いた。
「今からいくか?」
「もうちょっと、このまま」
甘えた声で森田は囁いて目を閉じる。
このもうちょっとは日が暮れ夜が顔を覗くまで続いていた。
End