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□日焼け
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「南郷さん、氷ある?」

帰宅して第一声を発したしげるに、まずはただいまだろ、と注意しようと顔を上げて、南郷が固まった。
しげるの肌は白い。はじめのうちは髪に目がいってなかなか気づかなかったが、色素が薄いのだ。夜に外を出歩くしげるを見たとき、周りの闇と不釣り合いな、まるでそこだけ浮きでているようだと思った。
それが外から帰ってきたその顔は、赤く火照っていた。

「アカギ!顔赤いぞ、風邪か!」

驚いて力加減を忘れてつかまれた肩に、予想通りの慌てぶりを感じて、顔に出さないけれど、少しだけおもしろいと思った。
南郷は優しい。本人いわく叔父的優しさらしいが、多分根が優しいのだろうと、しげるは思う。

「違うよ。日にやけたから赤くなっただけ」
「日にやけたから?」
「そう。オレ、黒くならない変わりに赤くなるタチみたいなんだ」

今日の天気は晴れだ。昼間はかんかん照りとは言わないほどでも、雲が少なく日射しが強かった。
朝出る時は学校に行くと思っていたのだが、どうやら違ったようだ。といってもしげるがまじめに学校に行くというのもイメージし難いのだが。

「そうか、ならよかった。ちょっと待ってろ」

玄関に立ったままだったことに気づき、中に座らせてから氷を取りだして、ビニール袋に入れる。それをタオルで包んで手渡した。
早速頬に押しつけるしげるを見て、南郷が大変だな、と呟いた。

「痛むのか?」
「ひりひりするだけだよ。冷やせば治る」

頬、鼻、額と順を追って冷やしていく。だいぶ手慣れているのだろう。

「俺はすぐ黒くなるから、痛みはないんだけどな」
「そんな感じがする」

鼻の頭と目の周りを一緒に冷やしていて目は隠れているが、声は明るい。

開いた窓から入った夕方の風が火照った頬をくすぐる。涼しくなった風と居心地のよさに、しげるはちいさく笑った。





End


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