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かたやソファーで脚を組み優雅に座る一条と、かたや床に正座してうつむく村上。冷たい視線を全身にあびる村上の肩はわずかに揺れていて、一条への恐怖からかと思えるのだがその実、一条の視線に興奮しているのだ。
村上は一条に好意をよせている。恋愛というよりは熱狂的なファンと表した方がしっくりくるだろう。今回の状況も、その熱狂的な想いからのものだ。

「出せ」

「…いやです」

一条が床を指しながら命令し、村上がそれを拒否する。数分前と同じ応答がくり返された。普段なら一条のいうことに対して十で返す村上なのだが、今回に限って、そうもいかないらしい。村上がそこまで必死に守ろうとしているものは。

「いいからカメラ出せ」

「出したらどうするんですか?」

「ぶっ壊す」

「絶対いやです!出しません!」

村上に写真を撮る趣味はない。風景など興味はないし、動物にしても同じことだ。一条がカメラ《だけ》を出せというのなら、村上もここまで拒否しない。
買い替えれば済むことだ。むしろ、より性能のよいものを買うだろう。
一条をより美しく映すために。
村上がカメラに収めているのはすべて一条だ。休憩時間、仕事中、出勤時にいたるまで隙あらば一条を撮っていた。それも気づかれないよう、かなり用心深く。
ただ、少しの油断から気づかれてしまい、現在にいたる。

「――お前…そんなに大切なのか?」

「命より!」

キッパリと即答した村上に呆れ半分、諦め半分で、一条はため息をついた。

「…なら、カメラはもういい」

床に座ったままだった村上が顔を上げたのは、いい終わるより早かったかもしれない。
――店長…!
きっと憧れる彼の顔には優しい笑みが浮かんでいるのだろう。
そんな思いで見た一条の表情は、優しさなぞ一片もなく、村上を凍りつかせるには充分だった。

「週五日フルで働くのと、爪マニキュア。どっちがいいか選ばせてやる」

村上がどちらを選んだかは、彼らだけが知っている。




End


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