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□かわいいやつ
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「Trick or treat?」

流暢な英語が聞こえ森田は新聞へ落としていた視線をあげた。
唐突な呟きに聞き間違いかと首を傾げたが、銀二の視線は森田に向けられている。そうして同じ言葉を繰り返され、森田は自分に向けられてのものだと理解した。

「なんですか、急に」
「そんな時期だったと思ってな」

確かに季節という大まかな時期は外していない。しかしその言葉を口にするなら一ヶ月遅いだろうという思いは、心の中でとどまった。
思い返せば先月は仕事の山が並んでいた。今月に入り余裕ができたおかげでいまはこうしてお互いソファに寛いでいるが、先月顔を合わせたのは指を折り数える程度しかなかった。

「それで?甘いものあるのか?」

肘置きに置いた腕に顎を乗せ、銀二はからかうように目を細める。態度からして銀二はいたずらでもお菓子でも、どちらでもいいのだろう。ただ森田の反応を楽しみたいといったところだ。

「甘いものかあ…」

森田は新聞を置き、ソファから腰を上げる。困ったような言葉とは裏腹に足は迷わず戸棚へと向かった。
ゴソゴソと棚を探る森田を見て銀二は呆れ半分と喜び半分で眺める。最初は本当に思い出しただけで、適当に流れて終わる話のはずだった。森田が仕事に関して生真面目なことはよく理解しているが、同様に銀二に対しても生真面目を発揮することを忘れていた。
くすぐったい気持ちで動くたびに上下に揺れる髪を眺めていると、不意に森田の動きが止まり、くるりと振り向いた。

「ありましたよ、甘いもの」

赤いパッケージの、コンビニの菓子コーナーによく陳列されているそれを片手に森田はにこりと笑う。
準備のよさとタイミングのよさと。なにより手に持っているものに銀二は肩を揺らした。





End


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