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□隣
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「赤木さん。ビールでいいですか?」


「おぉ」


袋のものを出した後。
居間で座っている赤木に問い掛け、カイジは冷蔵庫から買い溜めしておいたビールを両手に持って戻る。

手渡しする際に一瞬触れた手はよく冷えたビールより冷たかった。


「どんだけ外に居たんですか!」


驚いたカイジはビールをテーブルに置いて、決して温かいとは言えない手で両手で包み込む。
けれど今の赤木と比べたら充分に温かい。

暫くそうしていたが赤木の手は温まるどころか、ただカイジの手を冷やすだけ。

自分のせいで…と心中で責めるカイジを見透かしたのか、不意に赤木は優しく手を振りほどいて首に腕を伸ばす。

そして、突然のことで理解に時間を掛けるカイジを腕の中に閉じ込めた。


「赤木さん!?」


「んー?」


カイジにとって辛い態勢ではあるものの、穏やかな赤木の声に振りほどけそうにもない。

仕方なくしゃがんだままだった足を崩して座り込む。


呼吸をするたびに香るスーツに染み込んだ同じ煙草の匂い。
目を閉じると感じる静かな心音。

全てが赤木しげるを示すもの。他の人間と特に変わったところもない。
けどそれが全て特別に感じてしまう。


不思議なものだとカイジは思う。

自分が同じ風貌で同じ態度であっても赤木とは似ても似つかないだろう。
赤木しげるだからこそそれが赤木になる。

他の誰かが赤木しげるを演じてもどんな凄い人が演じても。赤木しげるには及ばない。

それほど赤木しげるは特別だった。



だから。
だからこそ不安になってカイジは意を決して口を開く。


「俺は…赤木さんの隣に居ていいんですか…?」


蚊の鳴くような小さな声も赤木はしっかり聞き取り、続きを促すように「ん?」と声を発する。

その穏やかな声音にカイジの中でなにかが溢れだす。


「俺なんかギャンブルすれば大抵負けるし…、全然立場も違う…。…なのに俺みたいなのが隣に居て…迷惑になりませんか?」


自分で言いながら赤木との距離を更に実感し、カイジは泣きそうになるのを必死で堪えて言い切る。

すると赤木は小さくため息を吐いて、カイジを抱き締める腕に力を入れた。


「俺はお前が思ってるほど凄い人間じゃねぇよ。それに、立場なんてどうでもいい。俺はカイジと居たいから居るだけだ」


「でも…」


続けようと顔を上げ口を開きかけたカイジを黙らせるように、赤木は触れるだけの口付けを落とす。


「俺がいいって言ってんだ。他に理由がいるか?」


たった一言。
それだけでカイジの溜めていた不安が薄れていく。

そしてやっぱり赤木は赤木なのだと実感する。
例え神域と呼ばれようと黒服に囲まれていようと、自分自身を優先する人間。

だからこそ惹かれたし、こうして隣に居てくれていると。


「…いりません」


カイジの答えに赤木は満足そうに笑顔を浮かべる。

そうして暫く二人は幸せを堪能していた。





End
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