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□Stay here
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梅雨入りを迎えた6月。
空には厚い雲が覆われ、絶えず雨が降り注ぐ。
「ちーっす」
ガラリと教室のドアを開け、軽く挨拶をして自分の席に着くと、それに気付いた雪夜がこっちに向かって近付いて来た。
「おはよう翔」
「おぅ!相変わらず早いんだな」
「まぁね。……それより、陽司見てないかい?」
「…陽司?」
そういえば、今日はまだ隣の席に鞄が置いてない。いつもなら俺が席に着くなり、やれガンダムが面白いやら昨日のテレビがどうのこうのやら、しきりに話し掛けてくるのに。
「今日雨だし、寝坊してんじゃねぇの?」
「…あぁ、うん。そうだよね」
雪夜はそれだけ言うと、いつもの笑みを浮かべて自分の席へと戻っていった。
陽司に何か用事でもあんのかな……、何か妙に焦ってるように見えた気もする……
席に着いた雪夜を見ながらぼんやりとそんな思考を巡らせていると、ふいにガラリ、と教室の扉が開く音がして、見れば陽司が鞄を片手にツカツカと教室を歩き出した。
「おっース、陽司」
いつものように挨拶をすると、陽司はこちらに気付いたのか困ったように笑いながら俺の方へと歩み寄る。
「はよ!!なぁなぁ聞いてくれよ翔〜、朝から風で傘壊れちゃってさ〜」
「マジかよ、お前バカだなぁ」
「お前にだけは言われたくねぇ!!」
「…おい、それどーゆー意味だよ」
少しムッとして軽く陽司の腹を小突いてやると。
陽司はいつものようにカラリと笑いながらも、颯爽と自分の席に着いた。
「あ、そういえばさ。何か雪夜がお前の事気にしてたみたいだぜ?用事でもあんのか?」
「………雪夜が?」
「…ん?…お、おう」
何だろう、雪夜の名前を出した途端、さっきまで元気に話していた声のトーンがあからさまに下がったような…?
「……陽司」
その時、突然から声がして、振り返るとそこには空が腕を組んだままつっ立っていた。
心なしか、眉間に皺が寄っている。
「おっす空!何だよそんな辛気くせぇ顔してよ」
「……翔…、オレちょっとトイレ行ってくるわ」
ガタン、と隣から勢い良く椅子が引かれる音がして、見れば陽司が無表情のまま、急ぎ足で教室の外へ出て行った。
「何だぁ?陽司のやつ…」
らしくねぇ、とその様子を不思議そうに眺めて軽く頭を掻くと、横で空が少し俯いているのが視界に入る。
「なぁ、お前ら何かあったのか?」
「……別に、なんでもない」
それだけ言うと、空もまた、自分の席へと戻って行った。
「……何なんだ…?」
今日の陽司…いや、空や雪夜も、どこか様子がおかしい事は誰の目から見ても分かるだろう。
理由は分からねぇが、俺の見ていない所で何かあった事は間違いないな。
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