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□絶対零度ノ世界-零レル涙-
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【スターチス-流星三國伝-】
『絶対零度ノ世界-零レル涙-』
――夏なんて消えてしまえばいいのに………
***
8月1日
カレンダーが一枚めくられ、その日付が現れる。
「もう8月か……」
あの日が近付く度に苦しくなる。
独りで居る事が嫌なはずなのに
誰にも会いたくない
『寂しいから傍に居て』
『こんな僕を見られたくない』
二つの気持ちが交差する。
「時間って不公平だよね……」
生きている命には平等で流れ
失くした命にはもう与えてもらえない
「……どうして僕を置いて逝ったの?母さん――」
机の上の写真
それは10年も前のもの
あの夏の日に撮った……
僕と、父さんと、弟たちと……
今はもういない――お母さん
10年前……僕と母さんの乗った飛行機が事故で墜落した。
忘れもしない、8月7日……
僕が7歳になる誕生日の一週間前――
乗員乗客かなりの死傷者が出たけど……僕は奇跡的に助かった。
でも母さんは………
『お母さん……ぼくだよ。ぼくここにいるよ……どうして何も言わないの?ねえ!ねえってば!』
目を開けなくなった母さんを前に、僕は言葉を失くした。
その時父さんの大きな手が僕の頭を撫でてくれたのを今でもよく憶えている。
『……氷斗、お前は母さんの分も生きなさい。その名前の通り氷の様…星の様に美しく輝きながら……』
【氷斗 -ヒト-】
美しく輝く様に……
想いを込めて名付けてくれたお母さん
泣きたかったけど泣けなかった
まるで涙が凍り付いてしまったみたいにせき止められ
零れ落ちることはなかった
ああ……輝く氷の様じゃなくて
ホントに"氷"になってしまったのだろうか?
それから僕は笑わなくなった
笑えなくなった
"ホントの自分"が分からなくて
世界が闇に堕ちたかの様だった――
あれから………10年