短編集→
□君のとなり
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◆◇◆◇
「はい、ココアだよ〜」
「ありがとうお兄ちゃん!」
公園に着くと、3人はベンチに積もった雪を軽く払い、そこにちょこんと腰掛ける。
女の子は月慧が買ってきたココアを握りしめ、嬉しそうに笑った。
「ねぇ、名前なんてゆうの?」
「ミサだよ」
「ミサちゃんかぁ…可愛い名前だね☆」
「うん!!お姉ちゃん達はお名前なんて言うの?」
「あたしは恵って言うの、そしてこっちが月慧くんだよ」
「じゃあ月慧お兄ちゃんと恵お姉ちゃんだね!」
ミサは2人の話を聞きながらニッコリと微笑みかける。
「恵ちゃん…何だか嬉しそうだね」
「うん///…恵、男の兄弟しかいないから、妹がいたらこんな感じなのかな〜って思って//」
「そっか。恵ちゃんに妹がいたら、その子もきっと恵ちゃんの事大好きだよ」
そうしてお互いに顔を見合わせ、少し照れ笑いした。
「…月慧お兄ちゃんと恵お姉ちゃん、仲いいんだね…」
その様子を見たミサは、ココアを握りしめながらポツリと呟くと顔を俯かせた。
「うん☆でも、ミサちゃんのお父さんとお母さんも仲良しでしょ?」
「……ううん……、パパ…いないの」
「…え……?」
「…あのね、これ…パパの写真だよ」
ミサは肩から下げていたポシェットから一枚の写真を取り出すと、2人に見せた。
写真には、まだ小さな赤ん坊のミサに優しく笑いかける両親が写っている。
「ねぇ、ミサちゃん。…今頃パパとママが心配してるよ?」
月慧がミサの顔を覗き込むようにして言うと、ミサは突然わあっと泣き出して首を横に振った。
「そんな事無いもん!!ママは…ママは……ミサがいたって、泣いてっ…ばっか…りっ…だもん……!」
「でも…恵も、ミサちゃんみたいな子がいなくなったら……すごくすごく悲しいよ」
「…そんなこと無いもん…ッ!!…パパじゃなきゃ……ダメなの……。……だからね、ミサが…パパを探してあげるんだもん…!!」
「…パパは、家にはいないの?」
「ママはね……パパは天国っていう所に行っちゃったって……」
ミサがそう言った時、2人は何と言葉をかけてあげたら良いのか分からなかった……
それでも、ただひたすらミサの話に耳を傾ける。
「それにね、ミサの家にだけサンタさんが来てくれないのは……きっとパパがいないからなんだもん………」
「…ミサちゃん……」
ミサの言葉に、恵はズキリと心が痛んだ。
まだ、こんなにも小さいのに…
「ミサちゃん、そんな事無いよ」
長い長い沈黙を破り、月慧が少し微笑んでミサの顔見た。
「月慧くん…?」
恵が心配そうに月慧の顔を見ると、月慧は笑って『大丈夫』と目配せをする。
「サンタが来ないのは、パパがいないからなんかじゃないよ。…だって、ホラ!」
そう言って月慧は、持っていたケーキの箱をミサの前に差し出す。
「…え…?」
「実はこれね、さっきサンタさんからミサちゃんに渡すようにって頼まれててさ☆すっかり忘れてたよ」
「サンタさんが…?」
「うん!!」
月慧が優しくケーキの箱をミサに渡すと、恵もその様子を見て同じようにミサに持っていたケーキの箱を手渡した。
「はい!これはミサちゃんのママの分だよ」
「ママの?」
「そうだよ!きっとね、ミサちゃんのパパが、『ミサちゃんとミサちゃんのママは元気で良い人だよ〜』ってサンタさんに伝えてくれたから、プレゼントくれたんだよ」
「パパが…?」
「きっとミサちゃんのパパは、ちゃんとミサちゃんの事見ててくれてるんだと思うよ」
「……うん…」
2人の言葉にミサは嬉しそうに微笑むと、手渡されたケーキの箱を大事そうに握りしめた。