NOVEL 第一部[完結]


□その想い時を経て
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 一帯は燃え盛る火炎に包まれ、闇色の空を朱く染めあげている。
それを嘲笑うかの様に月は弧を描く。



「……おのれ……曹操……」

『曹』の旗を掲げる大軍に襲撃された名家・袁一族。

「久しいな、袁紹」

かつての友を見下す曹操。その瞳に躊躇いの色はない。

「お前の存在が気に食わなくなってな」

「………」


圧倒的武力で抑え付ける曹家に対し、袁紹は既に打つ手を失くしてしまっていた。



 曹家と袁家の闘い……後にこれは『官渡の戦い』と呼ばれる、三国志史上の大きな戦いのひとつである。



***


「いいか…私の傍から離れるな」

「はい……」

威力を増す火の海は袁家の城を包み込む。

倒れる柱が逃げ遅れた二人の進路を阻む。
絶え間無く襲い掛かる火炎……熱が体力を奪う。



……だが……



突然何処からか流れてくる冷気を感じた。

「……これは……」


紅く燃え上がった焔城の一角が青白く不気味に煌めいている。



「まだ生き残りが居たか…」


その一帯だけがそこに居る男の手によって凍り付けにされている。
業火の渦に巻かれながらも氷の結晶は散乱している。


「……美しい……君みたいに麗しい女性は初めて見たよ」


男は二人に歩み寄る。


「僕と来ないかい?それとも滅び行く袁家と共に朽ちるか…」


凍てつく氷の様に冷たい眼をした彼は何者なのか……?

今言えるのはこの男が間違いなく“敵”であること。



「お前のようなヤツに彼女は渡さん!」


「あなた……」


青年は女性を背に庇い、男と対峙する。
腰の剣を引き、するとその剣の周りに電撃が生じる。


「へぇ……雷の力を使うのか。それは興味深いねえ」

そう言うと男は両手に力を集中させ、二対の氷の剣を作り出した。

「いくよ」











「……くっ、貴様ッ……!!」



「サヨナラ」



「……様ッ!!?……様あぁッ!!!」






炎に包まれ……城は間もなく落城した。





***

 
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