NOVEL 第一部[完結]
□信じ合う仲間
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『武に磨きをかけるのも良いが、勉学に励んでみないか?』
一国を預かる殿からの直々の言葉。
早くに父、兄を亡くし跡を継ぐにはまだ早過ぎる年齢だと言われながらも彼はよくやってくれている。
『勉学?……私が?』
今まで武芸一心だった私は勉学など戦術に必要ないと思い、全くと言っていいほど手を出さなかった。
そんな私になんで殿は突然……?
***
渋々ながらも殿の言葉を承諾することにした。
『そんなに私に勉学を叩き込みたいのならば、それ相応の師を付けていただきたいですね』
と嫌味半分に言ってみたものの、殿は笑顔で頷いた。
……まさか我が軍最高軍師をお呼出しとかしないだろうな?
期待はすぐに裏切られたけど。
「はぁーい♪呼んだ〜?」
その男は時期軍師候補に上がっている弓の名手。
性格は真面目と不真面目の中間。
「殿……失礼ながら、彼に教えてもらうほど私は頭悪くないです」
「まあまあ、話だけでも聞いてやってくれ」
「ですが殿…」
「ハイ殿!このコはボクが一生懸命面倒見ますネー♪」
その日からこの空気読めない男と私の勉学会が始まった。
「ダーメ!なんでも暴力で解決出来ると思うな!」
「…部下が争っていたら上の者が上から押さえ付ければいいだろ」
「ケンカはねぇ、怒りという感情から始まるものでしょ?だからまずその怒りを取り除く必要があるんだ」
「お前は何が言いたいんだ」
「年上にそんな口聞いちゃダメでしょ!」
そんなこんなでくだらない話を毎日聞かされた。
その時間に武術の稽古をしていればもっと強くなれるに決まっている。
「人間、笑顔がイチバンだよ♪」
ただ毎日こんな話を聞いていただけで、私に何かしら小さな変化が訪れた。
使えない部下の些細な失敗にいちいち腹を立てていた。
それについて考え方が変わった。
部下の失敗に腹を立たせるなんてことがくだらなく思えた。
代わりに笑顔で、
「次は気をつけて」
と言ったら、部下は目を輝かせていい返事をして仕事に戻った。
使えない部下……使えない部下と言わせないように私が導いてやることが必要なのだな。
殿が彼を私の師として選んだ理由を理解した。
“人間、笑顔がイチバンだよ”
ああそうだ、私に欠けていたモノ……それは笑顔なんだ。
いつの間にか私と彼は“親友”と呼べる間柄になっていました。
彼と出会い、人に対しての思いやりの心を学びました。
***
「ああ降参だ!煮るなり焼くなり好きにしやがれってんだ!!」
殿のお父上の仇討ちと題し、我らは一軍相手に戦いました。
そこで私は敵だった男と出会いました。
彼の瞳は情熱を滾らせており、こんな所で失うには勿体ない男だと感じた私は彼に言いました。
「私の部下になりませんか?」
「……オレが?」
きっと彼は死を覚悟していたんでしょうね。
思いがけない言葉に目をパチクリさせて、その表情が今でも忘れられません。
「先程のあなたの戦い方を拝見させていただきましたが……まるであなたを見ていると昔の自分みたいで……」
彼を引き取りたいと思った一番の理由。
彼はひとつ頷いて承諾してくれました。
また明日から忙しくなりそうですね。
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