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□ 心の距離
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アレンとリナリーが重傷を負った任務「巻き戻しの街」ラビは長期任務に同行するためブックマン、コムイと共に負傷者二人のいる病院に足を運んだ。彼は病室の窓から街を眺めた。目線を下に向けると、不意に目が合った。
━新たな神の使徒━
ミランダ・ロットーである。


あの時のオレらの心の距離は、このくらいだったな。


━━心の距離━━     

あのときの彼女の目は、どこか不安や恐怖が隠れているようだった。―最初に挨拶を交わしたときも―恐らくそれは、誰に対しても引け目があることを表しているのだろう。

「なぁ。」

いきなり声をかけられてか、彼女の目は驚きと恐怖、不安の色に染まる。

「あんたさ、こないだみたいな態度、やめね?」

そして、その表情からは、先程までの穏やかさが消え失せ、焦りに変わっていった。

「いつまでも不幸な人すんの、やめるさ。あんたもなんか色々あったみたいだけどさ、んなもん自分だけじゃねぇさ。オレだって仲間とか友達なんていねーけどさ、こーして笑ってっしさ。」

「つーか」

風が止まる。

 ・・・・・・・・・・・・・・・
「あんた、ちゃんとがんばったさ?」

何も聞こえなくなる。彼の言葉を除いて。

「んな不幸な日とやってさ、不満とかグチグチいってさぁ。そんなんだったら周りの人間も嫌んなるし傷付くさ。もっと他人のこと考え・・・」

「・・・・・っ」

彼女の言葉に遮られたが、何を言っているのか聞き取れなかった。

「・・・・・・・・・・っ」 「・・・っ」

「何さ?聞こえねぇからもっとはっきり言うさっ」

しかし、やはり何を言っているのか、言おうとしているのか分からない。

「ちゃんとここまで聞こえるように言うさ!」

ガツッ

不意にバンダナに小さな衝撃を受けた。

ヒュッ

また飛んできた。
が、今度は掴むことができた。
手の中のものは小石、飛んできた方向からするとミランダの乗るはずの馬車の陰に隠れている3、4人の子供たちだろう。
ラビの目線に気が付くと、馬車の前へ出てミランダを守るようにして囲んだ。
しかし本人は下を向き、微動だにしない。
子供たちがいることにも気づいていない。

「オマエどっかの王様かよ!?そんな高ぇトコからあーだこーだ言ってんじゃねーぞ!」

一人、犬を連れた少年が声を荒げた。
恐らくこの子供がリーダーだろう。続いてほかの子供もラビに罵詈雑言を浴びせてくる。
そこに、ようやく子供たちの存在に気づくも何が起こっているのかわからないという顔のミランダがいた。

「行こうぜ!」

ガキ大将の合図と共に子供たちは退散した。
ミランダもそれに同行していた。

「な・・・なんなんさ・・・?」

独り取り残されたラビは呟いた。

「オレは別に・・・ただ・・・っ」

――言い訳にしかならないかもしれない――

――でも本当に、悪気だけはなかった――


「なんだっつーんさぁあぁあ!!」

≪いきなり声を荒げるな、馬鹿が・・・≫

「すまねぇさ。でもここ数分間の不愉快な出来事を聞くさぁ。」

ラビは別の長期任務についている神田ユウに通信用ゴーレムを通じて相談していた。
彼は、ラビにとってもっとも信頼できる者だった。

「―ってさ。つーかなんであっこであー言われたんか分っかんねぇさ。オレだったら、しないね。もうなんか変なんさ、卑屈っつーかさ・・・だから・・・」

≪だから、笑うのか≫

今まで時々相槌を打っていただけの神田が突然話し出したので驚いた。

≪自分が平気なことを、他人が平気じゃねぇのは、そんなに滑稽か?≫

≪そうなら≫

≪残酷だな・・・お前は≫

ブツッッ

通信はそこで途絶えた。

(え?)

言われて初めて、気が付いた。



ツーツーツー ブツッッ

≪・・・・・≫

「なぁ、ユウ。」

≪何だ?≫

ユウと呼んでも怒らなかった。

「ご・・・めん、さ。」

≪何がだ?≫

「怒ってんだろ?オレが、間違ったこと・・・した・・・から。」

≪・・・間違ったわけじゃねぇ。≫

彼は、感情をむき出しにするでもなく、無表情なわけでもなく、静かに言った。

≪確かに、他人の痛みに無頓着なほうが、世の中生きやすいだろうな。傷つけようがお構いなしで、踏みつけたことすら気づかずに忘れちまうような生き方のほうが・・・≫

≪だが≫

≪お前はそういうやつなのか?≫

≪もしかしたらそれで損をするかも知れねぇが、≫

≪必ず誰かの救いになる。≫
          なか
神田の言葉は、オレの内側にまでちゃんと届いて安心させる。
訊けば、答えてくれる。

「けど・・・どうするんさ?」

≪声が聞こえねぇなら、降りていくだけだ。・・・すぐ近くまでな。≫
  ぅ ぇ
≪高ぇところからのモノサシで決めつけるな、お前が降りていけばいいんだ。≫

≪本気で、聞きたいと・・・思っているのならな。≫

(―聞きたいと、思うなら―オレは本当にできんのか?)

「なぁユウ、もしできんかったら・・・ホントはそういう奴じゃなかったら、見放すさ?」

いまさらもう遅いけど、イエスが返ってくるのが怖い。

≪・・・さあな。≫

その言葉が、その声が、答えを教えてくれた。

≪まぁ、斬るのは確かだな。≫

「え・・・・。」
                   コト
オレにとってユウは、兄で父親で、オレの存在を認めてくれる存在で・・・・
 あの人
(ミランダはそれが今まで無かったのか。―それは結構、つらい事だと思う―)

 泣いたさ?

一人ぼっちでずっと泣いてたさ?


神田と話している時間がどれほどあったのか考えることもせず、病院を飛び出した。
奇跡的に、馬車はまだそこにあった。
そのすぐ隣に、ミランダも。

声をかけようとしたが、その前に相手がこちらを見た。
しかしラビを映し出す瞳に光は灯されていなかった。

「あ・・・あのさぁ・・・」

ラビは、このとき気づいた。
もうひとつの、いやその他たくさんの視線を感じる。
ミランダの周りには、先程の子供達がいたのだ。

(うわー、なんかめっさ睨まれてっさ・・・なんでガキに気付かんと声かけたんさ?オレってバカ?)

けど、今頑張んねーとだよなユウ・・・っつ−かお願いさから斬らないでくれさ!!

「さっき、ごめんさ!・・・なんつーか、一方的に非道ぇこといって・・・」

この先はもう言葉が出て来なくなってしまった。

「そそっそんな、あなたが謝ることなんて―…「あるさ!」

慌てふためくミランダを静止し、言った。

「あるある。」

その場にいた子供たちが口を揃えて言ってきた。

「ちょっ、そこ横から入んないでくれるさ!?」

「ふふっ」

「なっなんさ?」

「皆仲良しさんね。」

彼女は微笑みながら言った。

「笑ったさ!!」

ハッとして彼女はその笑顔を消した。

「よしっそれいいさ、最高!ミランダは笑ってるほうがいいさ、絶対。」

「笑っても、いいのかしら・・・?」

先程とは打って変わったような控えめな声で誰にともいわずうつむいて彼女は問うた。

「いいに決まってるさ!トーゼン!」
                                 コト 
―その言葉で、顔を上げることができた。一つ、許された気がした。私の存在を―


言ってみて、やっと分かった。

(ただ、オレはただ、―笑って欲しかったんだ―)


だから私は言えた。『相手を認める言葉』を。

「ありがとう。」

そう言ってミランダは立ち上がり、馬車に乗った。

子供達の妨害に遭い、最後まで見送ることはできなかったけれど、それで充分だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「なぁ、ペーター?」

ミランダも、赤毛の青年の姿も見えなくなった頃、子供達の一人が口を開いた。

「なんで不幸女なんか助けたんだ?」

ペーターは上の空で答えた。

「うーん・・・。なんかアイツツラそーな顔見たら思ったんだ。『守ってやりてぇ』って。なんでだろ・・・?」

「「「!!!!!!?」」」

一斉に全員の顔が青くなった。

「ややっ止めとけ相手は不幸女だぞ!?」

ペーターは頭上に『?』マークを浮かべていた。

(皆何言ってんだろ・・・。でもオレも変だよな、不幸女助けるなんてさ。)

実際、今もおかしい。不幸女を思い浮かべると顔が熱くなる。

(なんなんだろ?でもまだ、気づかないほうがいいのかな・・・。)

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しっかり言い訳させていただきます。
あぁ神田がなんか面倒見がよくなっちゃってごめんなさい。ラビもなんか違う気がするので申し訳ない。ミランダさんしおらし過ぎますよ、すみません。

あ・

でもペーターはあえての崩壊です。


掲示板にて御意見お待ちしております。

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