□静寂
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窓の外を見たら雨が降っていた。

「レッド、雨降ってる」
「うん」
「傘貸そうか」
「いいよ。家隣だし」
「でも結構降ってるぜ」
「走るからいい」
「あそ」

レッドは読んでいる本から目を離そうとしない。
ベッドの上で膝に本をのせた格好のままで、すでに一時間がたった。

「何読んでんだよ」
「ホラー小説。」
「怖い?」
「まあまあ」
「シオンタウンのポケモンタワーに夜一人で登るのとどっちが怖い?」
「ポケモンタワーは怖くないよ」
「嘘つけ」
「本当」
「信じねえ」
「そう」

素っ気ない返事だけが返ってくる。
本を読んでいなくてもレッドはいつも素っ気ないけれど。

グリーンは机に頬杖をついた。
あらかさまにため息をついてみる。
レッドは本から目をはなさない。
今度は大きく咳払いしてみた。
反応なし。

ベッドの側によってみた。
レッドは静かに本のページをめくる。
床に座ったまま、ベッドにもたれてグリーンはレッドの顔をしばらく凝視してみた。
相変わらず反応はない。

「レッド」
「何」
話しかけると反応する。
「なんか食う?」
「いい」
「人んち来て本ばっか読むなよ」
「うん」
「遊べよ」
「うん」
返事だけして、相変わらず本から顔をあげない。


時間と雨水だけが、静かに流れて行く。

しとしとしとしとしとしとしとしとしとしと


「何」
レッドの声でグリーンは我に返った。
気がついたらレッドの本を取り上げていた。

「何でもない」
暫しの静寂が訪れる。


「返して」
「ああ」
本は見た目より重かった。
グリーンの手からレッドの手へとその本は渡される。

「あ、髪の毛」
本から細いモノが落ちた。
拾う。
黒い。グリーンは茶色だからレッドのだろう。
「レッドのかな」
「そうなんじゃない」

レッドは一瞥しただけで本に目を戻した。

黒い、細い髪をグリーンは眺める。
指に巻き付けてみたり。
引っ張ったり。
匂いを嗅いでみたが解らなかった。


「何してるの」

今度は声の調子が違う。
レッドの顔を見ると少し怪訝な顔をしていた。
「何って」
「それ」
グリーンは口に髪を含んでいた。
口元から黒い髪の先が覗く。
噛むとぷつりとそれは切れた。
飲み込む。

「食べたの」
「そうだよ」
しばらくレッドはグリーンの顔を見つめた。
グリーンは目をそらした。

「…雨、止まないね」
「うん」
「やっぱ傘貸りるよ」
「いいよ」
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