犬千代様受け

□忍と犬
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「いやー、やっぱり加賀は、和やかな町だなぁ」
澄んだ空気と、優しい人達。それに、うまいめし…
「某は、幸せだぁーっ!」
町のど真ん中で、叫んでみる。もちろん、大半の人は驚いていたが。
今日は、戦が先日終ったばかりだから、久々の散歩。
こんな日々が続けばいいのに…心の隅で、そう思った。
「…あれ?…アイツ…」
どこかで見たような顔があったので、近付いてみた。
「お、お前はこの間の忍ではないか!」
「あぁ、前田の…久しぶりだねぇ」
「あの時は慶次が悪い事をした。すまぬ…」
慶次が幾月か前家出をした時に、虎の若子やその配下の忍に迷惑をかけてしまったことがあった。
その時の忍が、なぜかここにいるのだ。
「いや、もう大丈夫。ま、痛かったけどね。あはははっ」
「今日は、どうしたのだ?加賀までわざわざ…何の用だ?」
偵察であれば姿を隠し、こんな人前に出るはずはない。
とりあえず疑う必要はなさそうだから、普通に尋ねてみた。
「俺様?いやぁ、何の用って…前田の旦那に用があってさ」
「…某に?」
敵国の忍ではあるし、そこは不審に思った。
しかし、忍の口調からして、敵意は全く感じられない。
「前田の旦那、今は、暇かな?」
「お、おう。これといった用事はないが…」
忍の明るい笑顔で、一気に先程の疑惑は吹き飛んだ。
まつに似た、優しい笑顔だった。
「じゃ、俺様と一緒に来てくれない?」
「どこにだ?」
「ふふ…秘密」
忍は怪しげな笑みを浮かべ、某を抱き抱えた。
「あ…何をするんだ?」
「空。飛んだほうが早いんだよね〜」
次の瞬間、ふわりと某の体と忍が浮き上がった。
「おぉ〜、某、空を飛んでるぞぉ!」
「ははは。初めてだったの?前田の旦那」
「某は武士だから、忍のすることなんて出来ないぞ?」
「俺様はフツーだからね、この空を飛ぶってことが、さ」
「いいなぁ…某、空、飛びたかったんだ」
忍の世界にも、武士の世界にも、必ず決まりがある。
君主に忠誠を誓い、命令に従う。
君主の為、世の為、命をかけて日々を生きる――
そういう意味では、某も忍も一緒か…。
と、しばらくして、忍は人気のない静かな山の中にある小屋の近くに着地した。
「ここで…何をするんだ?」
「いいことだよ、旦那。だから…しばらくは眠ってて?」
忍が言葉を言い終えた瞬間、目の前が真っ白になった。
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