短編 小説

□一輪の花の出会い、前編
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「止めなさい、紗々!!」

母親の声なんて聞こえない。
私は世間に見放された一人の人間。

どうして?どうして私を生かすのよ!
死なせて、逝かせて…―。

何回も、何回も自分の腕を傷つけた。
いわゆる自傷行為、リストカットというものだ。

私がそれをするたびに止められ、
この生き地獄、この世に居る。

―ガチャ

ドアの開く音。
ノックもしないで入ってくるのは
一人しかいない。



母親だ。

「ご飯よ、ねぇ…紗々…」

紗々と呼ばれる無口、
無表情の少女。

カチャと、食器が音をたて、
置くが全くそれに手をつけない。

「温かいうちに食べてね」
と笑いかけ、部屋を出て行った。

ご飯なんて見向きもしないで
布団にもぐりこんだ。

『緑の目、気持ち悪い』

『きもいんだよ!!』
始めは、そのフザケ合いから始まった。
だんだんエスカレートしていって…

暴力へと―…。

全てがフラッシュバックした。
聞こえるのは、紗々への言葉の暴力。

「―ッ!!」

あるわけの無い爪を一生懸命噛む。
指を思いっきりかじり、
血が滲み出た。

「紗々…開けてもいいかな?」

優しい兄の声、
悠紗の声だ。

いつも、そう言ってガチャリと開ける。

母が入って来たときに付けた電気が消えていても
兄は付けなく紗々に笑いかける。

「また、ご飯食べてねぇのか?」

そういう兄の問いかけにコクリと首を動かす。

「そっか、今日は貰い物のチョコなんだ。
高いらしいけど、食うか?」

と紗々はコクリとまた首を縦に振った。

「ん、好きなの取れよ」

兄は箱を差し出す。

ふるふると小刻みに震える細い指でチョコを取った。

パクリと口ら入れた。
兄は何も言わずに横に座った。

「美味いか?」

紗々の顔を見、にこりと笑った。
すると、紗々は人差し指を立て

『もう一個食べたい』と
心で言っていた。

兄は微笑んで「お前のだろ?食べて良いよ」
と箱を渡した。

紗々は一つ一つ、ゆっくりと食べていた。

時折見せる紗々の変える表情に兄はいつも
嬉しいばかりだった。

この時間は…家には兄と二人だけだ。

母はパート、父は…離婚し、
今は愛人と暮らしている。

「今日さ、大学でな…―」
と、この時間はいつも、
兄の大学の出来事と、少しずつの勉強をしていくのだった。
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