<雨>







 天気が午後から悪くなっていたのには気づいていたが、放課後には予想していたよりも遥かに多い降水量になり、呆然と教室の窓から空を見上げる。

「ひでぇ雨だなぁ」

 どこからかそんな声が聞こえてきた。まったくその通りだと思いながらぼんやりと窓を叩く雨を見つめる。

 14のときに、今でも一番の親友を守るための天候の名前を授けられた。その名前は親友も言っていたが、自分でもまったく共通点がないと思っていた。

 雨なんて、暗い。陰湿で根暗なイメージを持つ。自分で言うのもなんだが、雨のイメージとはかけ離れているような気がする。そう、ずっと思っていた。

 思っていたのに、雨を見るとどうしても自分と同じものに見えた。幼い頃から雨を見るとまるで自分を見ているような気がして雨をじっと見つめていた。

 何が似ているのかと言われれば、雨の激しさが自分の心に似ていると言うところ。心が荒れているときほど激しい雨を心のなかに降らせ、静かな怒りを感じているときは小雨を降らせる。心情の変化が激しい自分に一番ぴったりと天候だと思う。

「山本、傘忘れたの?」

 ぼんやりと自分の考えに浸っていたときに聞こえた、護らなければならない人の声がして、振り返る。

「うん」

 間髪置かずに子どもみたいに頷いて、ツナの表情を伺う。ツナはすぐにはにかんで、言った。

「じゃあ、オレと一緒に帰る?」

「え、いいのか?」

「うん……って言っても、山本に傘持ってもらうことになると思うけど」

「ん、じゃあ借りはねぇな?」

「だね」

 にっこりと笑うツナに釣られて笑った。

 
 大空の天候は雨だ。激動の心情を表す豪雨にも関わらず、大空の心はいつだって太陽だろう。

 それでいい。自分が必要ないときが来ても、それでいい。

 
 だって大空には雨なんて必要ないのだから――…。



END





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