なぜ争いが勃発したのか。そんな質問を部下から受けた。

 愚問だと思った。だって、誰かが裏切れば、裏切り者として殺さなければならない。そうしないと、情報が漏らされるからだ。
 なのに、どうしてそんな質問をしてくるのか分からなくて、首を傾げるオレに向かって、その部下は言った。

「もう、終わりにしませんか?」

 真っ赤な片目を見て、初めて気づいた。

「……骸か」

 はぁと深くため息をついたら、部下は霧に包まれた。そのまま霧が深くなったかと思うと、ぱっと霧が晴れた。

「びっくりしたー」

 素直にそう言うと、骸が小さく口角を上げて、近くにあったソファに座った。

「最近、きちんと寝れてますか?」

「いや、寝れてない。お前のせいで、いっつも寝不足だよ」

 きちんと睡眠時間を与えられていて、眠りについているはずなのに夢ばかり見る。

「そうですか。僕もですよ」

 愚痴ろうとしたところで言われた意外な言葉にええっ?!と声を上げた。

「マ、マジで?」

「ええ。きちんと眠れているはずなんですがね。夢ばかりみる」

「あ、奇遇だね。オレもなんだよ」

 妙な夢ばっかりみる。

「お互い嫌でしょう。だから、休戦しません?」

 戦うことに疲れてしまった。昔から争いごとは苦手だったが、今は苦手ではなく嫌いになった。だって、無意味すぎる。無意味だと気づいたのに、戦わなければならない。
 だから、戦いを唯一止める方法を口にした。 

「……骸がボンゴレに戻ってくるならね」

「それは無理です」

 首を振る。どうして、と目で問えば骸は悲しそうに笑った。

「戦わなければ、ならないでしょう?」

「え?」

「君と戦わなくていいなら、嬉しい。でも、無意味にまた戦わなければならない。争いなんて、虚しくて、悲しくて、無意味なのに」

 戦うことが大好きだったヤツの言葉とは思えなくて、言葉に詰まった。
 骸が戦いに対する負の感情を持っていたことに驚いた。昔は生き生きと戦っていたけれど、確かにボンゴレを抜ける直前は、争うことを極力避けていた。
 その小さな変化に、オレは山本から言われるまで気づかなかった。

 気づいたときには、もう骸はボンゴレにいなかった。

「……戦いなんて、嫌いですよ」

 そう骸が言ったと同時に扉が開いた。

「何しにきたの」

 雲雀さんの静かな声に怒りを感じ取った。その後に続くように獄寺くんたちがいる。
 骸はうんざりしたように雲雀さんたちを一瞥して、言った。

「どうして、気づかないんでしょうね」

 戦いが無意味だということに。

「むくろ」

 戦いは嫌いだよ。虚しいし、悲しいし、無意味だし。苦しいし、最悪だし。
 でも、オレは戦いを止める術を知らない。

 だから、骸、お願い。


 争いを止めて。





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