天使が頭上を飛ぶ。驚いて空を見上げる。
茶髪の天使はニコニコ笑って、俺に矢先を定め始めた。驚いて逃げようとするが、足元に天使が四人いて足を押さえている。
「や、やめろって」
ふざけんな。俺はここで死にたくねぇんだよ。
非日常の世界へ足を踏み入れたけど、非日常の世界で死のうなんて、思ってない。
「やめろよ、マジで」
天使が、極上の笑みを浮かべた。そして、風を切る音がした。
放たれた矢は、俺の心臓を貫いた。
「ごめんね、山本。オレのせいで、野球も家族も店も日常も。すべて奪っちゃって、ごめんね」
天使がツナに変わる。ツナは今にも泣き出しそうに顔をくしゃりと歪めて……笑った。
「だから、全部返す」
心臓を貫いた弓が白く光る。
「オレのところには、戻ってこなくていいから」
世界の闇の頂点に君臨したボンゴレ十代目は、そうやって俺を日常に戻すと言った。
覚悟はしていた。すべてを捨てて、もう戻れないと分かっていた。ツナたちを得られる変わりに、日常も野球も家族も店も捨てることは簡単だと思っていた。
だけど、実際は辛くて悲しくて寂しくて、恋しくて。
「ごめんな、ツナ」
弱い俺で、ごめん。
野球よりも友人が欲しいと言ったあの日の俺には、会えない。
「会えねぇよ、ツナ」
気がついたら、ツナが入っている棺の前で座り込んでいた。白昼夢だと気づいて、嗤った。
「十年前のツナが来てんだ。もう、失敗は繰り返さない。ツナを失ってまで、昔に戻りてぇなんて思わねぇから。だから、どうか」
どうか、護らせて、ボス。
俺にはもう護れないけど、昔の俺ならツナを護ることができるだろうから。
「ああ、時間だ」
煙が身体のまわりから出る。それに気づいて、ふっと嗤った。
「ボス、またな」
end
2008.7.21