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 ツナが泣き出すから、殺意しかなかった俺もさすがにまずいと思った。

「ごめんね、山本」

 嗚咽を上げながら途切れ途切れそう言った。俺はツナの細ぇ首から手を離して、背中に腕をまわした。簡単に腕のなかに収まるからだからいい匂いがして、クラリとした。

「……ごめん」

 俺かツナが謝ってる。というか、たぶん俺もツナも謝ってんだ。

「ごめん」

 灯りを点けていない部屋に月明かりが差し込む。それはツナの白い首を際立たせていて、目に毒だと思った。別に害があるわけじゃないけど、あらぬとこが不謹慎だけど元気になりそうで怖いのだ。

「ツナ、泣くのやめろって」

 泣かせたのは俺だけど。たぶん、女が泣くよりツナが泣くほうがうろたえる。現に俺は女の子が泣いているよりも、ツナが泣いているほうに困ってる。

「……やまもとぉ、ごめん」

 俺はシャツの袖を無理やり引っ張って、ツナの涙をガシガシと乱暴に拭く。

「頼って、くれたのにぃ」

「勝手に頼って、勝手に幻滅した俺が悪い」そう言えれば、楽だ。だけど、ホントに信じてた。ツナだったら、俺のことに目を逸らさないでくれるって思ってた。俺と一緒に一生懸命悩んでくれるって思った。

 なんでもできる神様だって、勝手に勘違いした自分が悪いんだけど。

「……別に、もういいから。ツナはなんでもできるわけじゃねぇし、失敗だってする」

 だって、人間だから。完璧なわけない。完璧だったら、俺はツナに惚れちゃいない。

 なんで、完璧を求めたんだろ。

「でも、オレ、裏切っ……た。山本は、オレのこと好きでいてくれたのに。オレ、山本の考え甘く見てた。ごめん」

 真剣なことじゃないと、目を逸らした。目を逸らした結果、人が傷ついた。一番、傷つけてはいけない親友を傷つけた。

「……ツナが分かってくれたなら、いいんだ。俺も悪いし」

 神だ神だって騒いでいた自分が馬鹿らしい。

 ツナが泣いてんのみて、目が醒めた。

「ツナ、ごめんな?」

 背中をさするとツナが僅かに頷いたのが分かった。

*****


「ちょっと、なんでそんな仲良くなってるんですか」

 後日。号泣するツナを慰めたあと、お互い好きだったことが判明し付き合うことになった。ということを骸と雲雀とディーノさんと小僧に報告するべく、俺たちはツナの自室に四人を招いた。案の定、骸は心配して損だったとか言いながら、どかっと床に座る。

「すごく心配したんですよ?」

「いや、うん。ごめん」

 照れたように笑うツナを見て、骸は眉間の皺をなくした。

「まぁ、いいんですけどね。仲良くなったことは悪いことじゃないんで」

 小僧もうんうんと頷きながらニヤッと笑う。

「で? どこまで進んだんだ?」

「ちょっ、はぁ?!」

 ツナが途端に真っ赤になった。分かりやすいね、とか雲雀が言ってる。ディーノさんは笑ってる。

「行くとこまで行きたい、っていうのが俺の希望なんだけどな」

「山本も何言っちゃってんの?!」

 ツナがまた真っ赤になる。可愛いから抱きしめたらジタバタと抵抗されたからすぐに離す。

「そんな希望とかはどうでもいいですから、さっさとどこまで進んだかいいなさい!」

「骸! お前意味分かんねぇよ! なんでそんな命令形なんだよ!」

 ツナが声を張り上げる。ハハッとまた笑ってるのはディーノさんだ。ツナのおじさんはツナが男と付き合っても平気らしい。やっぱツナに似て器がでけぇのかな。

「いいじゃん、ツナ。どこまで進んだか教えてやってもいいだろ?」
 
 いままで散々迷惑をかけまくったのだ。もう隠すことは何もない。

「……キスまで一応進みました」

 触れるだけのキス。

「へぇ、やるじゃねぇかツナ!」

 ディーノさんがツナの背中をバシバシ叩く。雲雀は眉間を寄せて、呟く。

「……遅くない?」

「ですね。遅すぎですよ。ディープではないんでしょ?」

「う、うん」

「遅すぎ」

 雲雀がムスッとした顔で遅いと連呼する。行けるとこまでの行為を聞きたかったらしい。骸も残念そうだ。

「遅くはねぇと思うぜ? ゆっくり進んでいけばいいし。男同士なんて怖いからなぁ」

 な?とツナに同意を求めるディーノさんにツナはこくこくと頷く。

 本当はしたくて仕方ないけど、ツナが痛がることや嫌がることは強要したくない。

「まぁ、別にいいんですけどね」

「やったらちゃんと報告してよね」

 直接的に卑猥な発言は誰も言わなかったが、連想させる言葉ばかり雲雀や骸が言うからツナは真っ赤だ。やっぱ慣れてねぇんだなぁって思った。

 俺は結構部内で猥談するから平気なんだけど、ツナは帰宅部だしそういう話は恥ずかしいらしくて猥談なんて出来ないと言っていた。

「……なるべく、報告します」

「ええ、楽しみにしてますよ」

 ニヤつく骸に嫌そうな顔をしながらツナが俺を見た。


「ツナが言うの嫌だったら俺から言うから安心していいのな」

 そういって頭を撫でてやれば嬉しそうに頷いた。

 
 
 神は居る。神の庭に俺達は開放されている。

 でも、ツナは神じゃない。

 空とか飛べるし、額に炎を灯せる。神業だと思うことをこなすけど、人間だ。

 だって、ツナはこんなにも弱かった。弱くて脆くて、すぐに崩れる。俺とまったく同じだった。

 神っぽいところばかりに目が行って、自分と同じところを見ようとしなかった。

 自殺騒動のとき、あんなにも弱かった。お互い弱くて、だけどツナのほうが弱かった。

 俺も、空を飛んだ。だから、飛ぶことは神業だけど神なんかじゃないって、思った。だって、普通の人間の俺にもできることだったから。

 結論は神はいるけど、人間界には居ない。ツナは普通の人間。ただちょっと人より出来ちゃうだけのこと。



「山本」

 ディーノさんが感傷に浸っていた俺を呼んだ。

「祝いとしてビール持ってきたけど、いるか?」

 ヘラッと力が抜けるような笑みを浮かべるディーノさんの横で、ツナが困っているのを見て笑った。

「今度頂きますね」


End

 ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました!





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