人の気配がした。最近、毎日のようにマフィアになるための訓練を受けているせいか、人の気配に敏感になった。
今は夜である。布団に入り、浅い眠りについたときだったからこそ気づけたことに安心しながらも薄っすらと瞼を持ち上げる。そこでギクリと身体が硬直した。
眼の前に細い針がある。針先に滴る液体は……毒?
「……死ヌ」
聞き慣れた声で、心臓が飛び跳ねた。
眼の前の毒針を持っているのは、
ツナ?
「……生キル」
狭い視界の隅にツナが映る。ツナの表情は虚ろだった。何も映していない瞳にゾクリとする。
「……怖イ」
液体が重力に逆らえず、俺の頬に冷たい液体が落ちる。そのまま頬を伝い、首に流れる。
「……死ンダ?」
直接飲まなければ効かない毒だったというのは、自分の身に何も起きなかったからこそ分かった。
ツナは何も知らずにこの毒を再び針に垂らした。そのまま毒が入っている容器を置いた隙を狙って、針を持っているほうの手首を掴む。そのまま捻るとツナが「うっ」と呻いた。
「や、やまもと?」
正気に戻ったツナが俺の名前を呼んで、また顔を顰めた。俺はパッと手首を離して、すぐに針を奪い取った。逆の手でもすばやく毒の入っている容器を回収して、近くにあった引き出しに入れた。
ツナは手首を擦って俺を見ていなかった。安堵のため息を漏らして、ベットから立ち上がる。
「氷持ってくるわ」
「あ、うん」
あっさりと俺を部屋から出て行かせたツナに苦笑しながら階段を降りている途中で、腕を掴まれた。驚きながら振り返ると、随分伸びた前髪でツナの瞳が見れなくて、残念だと思いながら見上げる。
「あの、さ。オレ、もしかしてやっちゃった?」
低い声だった。俺は首をかしげた。
「やっちゃったって、何を?」
「あ、いや。なんでもないよ」
顔を左右に振り、ツナは笑って、そのまま部屋に戻る。
俺は心拍数が上がるのを感じながら、そのまま階段を下りていった。
END