戦国系

□なくしたもの
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昨日のことだ。
あの人に手を引かれながら、私は砂と風の夢幻郷に足を踏み入れた。

一面に広がる砂の景色、ここだけ違う世界のような、まさに夢の世界だった。
「綺麗ですね」と言うと、「あぁ」と言って私の肩に手を乗せて自分の方へと寄せた。
今自分の置かれている状況が幸せすぎて少し泣きそうなんて思った。


しかし、今は別の意味で泣きそうだ。
次の日、つまり今朝私はやっと気付いた。
いつも身に付けていた大切なものがない。部屋の何処を探しても見つからない。
可能性があるとしたらきっと、あの夢幻郷しかない。

「晴久さんお願いです、連れて行ってください」と頼むと、最初は断られた。
けど、涙ながらに悲願すると折れてくれたのか「・・・仕方ねーな」と、連れてってくれた。


「やっぱりないか・・・」

「・・・・・」


風によって日々形を変えていくこの砂の海で、あんなに小さいものを見つけられるはずもない。
分かっていたはずなのに、やるせない気持ちでいっぱいになる。


「そんな泣きそうな顔すんな」

「でも・・・」

「もっといいの、俺がやるから」


「元気出せ○○」そう慰められて泣きそうになる。
別にあれ、すごく高いものでもないしすごく綺麗とか、そんなんじゃないんですよ。

初めてあれを身に付けて、あなたに「よく似合ってる」と言われ、あなたが薄く笑って頭を撫でてくれたことが忘れられなくて、あれが大切なものになったんですよ。

思い出ごとなくしたみたいでこんなに泣きそうなんです。

今にも目から涙がこぼれそうなとき、急に頬を両手で抑えられた。
目線を上に向けると、少し心配しているような顔をした晴久さんが見えた。


「泣くなって」

「・・・・」

「もっとお前に似合うやつがある、絶対」


手をぐりぐりと回し、私の頬をほぐす。
「痛いですよー」と言うとやっと手を離してくれた。
そのお蔭か、今にも落ちてしまいそうだった涙は引っ込んでしまった。
そして彼はおもむろに私の手をとって歩き出す。


「あっ、あの、どこに行くんですか」

「今から○○に似合うやつ選んでやる」


行動に移すのが些か早くないですか晴久さん、なんて心の隅で思いながらも握られた手が嬉しくて仕方がなかった。
もうあれは見つからないだろう、少し悲しいけど私の記憶に残っていれば大丈夫。

握られた手に力をこめて握り返すと、少し驚いた顔でこちらを見た。
もう泣いてないですよ、と笑うと彼も一緒に笑ってくれた。


「思い出なんて俺がいくらでも作ってやる」


思い出は彼と共に







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