彼女の笑顔
□序章 狂っていた世界
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私は、いたって普通の子供だった。
ちゃんと遊んで、笑って、考えて…
いつからだろう。
深く考えすぎて、偽って、偽って、隠したのは…
きっと、この性格が生まれたのは小学6年生くらいの時だと思う。
学校では、自尊心の強い友達からの束縛。
家では、急な両親の不仲。家庭は不穏な雰囲気に包まれる。
きっと疲れてしまったんだ。きっと、辛くなってしまったんだ。だからきっと、私の心は上手く生きる術を身につけたんだ。
「あ、美咲が来てる!」
その声を聞いて、私は元気に応え、笑った。
「おはよー!!」
私はこの時、不登校になりつつあった。学校へは週に一度、朝から行けばいい方だった。
この日はたまたま朝から学校に行っていたからすれ違う同じ学年の人にほとんど声を掛けられた。
一体、何度あいさつしたことか。
そんな態度を微塵も感じさせないように、私が身につけた最初の技――笑顔、それをフル活用していた。
笑顔が偽りなんてことは、この世界の誰も見抜けない。
なぜなら、微笑み方、笑い方なんて人それぞれだからに決まっている。
学校内を歩き、クラスに着き、自分の席に座った。そして、5年以上付き合って汚れてぺちゃんこになった赤ランドセルの中から教科書を出し、机に押し込もうとした。
だが、机の中には既に大量の教科書が入っていた。
(なんだ、席替えしたのか)
私は仕方なく、1番近くにいたクラスメイトに席を訪ねる。
場所は、1番後ろの窓側。
昔からよくクジで引いてその場所になっていた。凄く縁のある場所で、落ち着く場所。
さっそく、その場所にある机の中に教科書を入れると、表面上では中の良い友達の元へ向かう。
「おはよー!」
そう声をかけると、友達も応えてくれる。
私は休み時間になると必ず、その友達の元へ行く。
だから、先生達から見ると、学校を休んでいるのに、仲間外れにされず、むしろ仲の良い友達がいると安心されていたことだろう。
だけど、そんなのは違う。
本当は仲間外れにされていた。
友達は決して、私の元へは来なかった。だから私からいつも友達の元へと向かった。
明るく、笑って、大声で話すことによっていれば、イジメの対象にならないことが分かっていたから。
勉強面では、元から馬鹿なのに、学校に行ってないから馬鹿でもしょうがない、というように振る舞うことで、そのイメージを友達に植え付けた。
そして、自分からわざと失敗して笑いを取った。
ドジっ子と言われて、笑っていた。
本当はもの凄くムカついていたのに。
自分は本心を隠しているからこそ、本音を吐く友達がとても、羨ましくて、愚かだと思った。
だって、実際にその友達は後で自分が痛い目を見たのだから。
もし、あの友達も本心を隠していればそんなことにはならなかったのにと、心で笑った。
私は日常生活の中で、いろいろな技を身に付けていった。
自分の役に立つものには勿論、予備として使える者にも媚を売った。
その中には、学校の先生も含まれていた。
だから先生という存在は自分にとても甘かった。
ほとんど、何をしても怒られない。
まあ勿論、故意に悪いことはしていないが。
学校が終わって、家に帰る。
家には、誰もいない。ただし、犬は別として。
親は共働きで、弟は友達と遊びに行っていた。
この時の私は、趣味も何もなかった。
ただ、なんとなくテレビをつけて、画面を眺めていた。
毎日がつまらなかった。
親や弟が帰って来ると、家は賑やかになった。
しかし、その賑やかさも両親の喧嘩により険悪なムードになる。
親同士の怒鳴り合い。
私と弟はそれを泣いて止めるしか方法がなかった。
沢山、泣いた。
毎日、泣いた。
それでも親は、喧嘩を毎日した。
そんなのが日常になって、父と母は一切、話さなくなってしまった。
父は朝の9時に起きて、10時に会社に行き、夜中に帰ってくるようになった。
だから父とはほとんど会わなくなった。
母は、毎日起こしてくれて、ご飯も作ってくれて、いろいろと関わることが増えた。
だが、たまに出る、父から母、母から父への悪口は、私の心に突き刺さる。
だって、私にとってはふたりとも大切な家族だから。
そんな親から親への悪口を聞きたくなくて、家族内に暗黙の掟が出来た。
それは、母の前では父、父の前では母の話しをしないこと。