彼女の笑顔
□第1章 これが私だった
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―4月―
はじまりの月は、桜の花に彩られて、人々を迎える。
学校の入学式は、そんな季節にある。
高校デビューという輝かしい行事に参加していた上谷美咲は理事長だか校長だか代表生徒だかの演説を受け流し、親やまわりの大人が言っていたことを考えていた。
高校を卒業したものは皆、高校生活が1番楽しかったという。だけど、私は信じられない。
だって、まわりの子達を見てみると、ガラが悪そうだし。自己中そうなのがいっぱいだ。しかも、明らかに陰キャラと呼ばれる人達が多い。
男子なんて、なんかキモいのが多いし。顔がマシって言ったらチャラ男だけじゃん!
あー、ちょっとでも青春を期待した私が悪かったです。はい。
そんなこんなを考えているうちに、入学式は終わり、それぞれの担任だという教師に教室まで案内される。
教室に着いて、出席番号順に席に着かされ、それからまた、つまらない話し。
たしか、この時は単位の話とかされてた気がする。
それを、ちゃんと聞いているフリをして、私はきっと担任の頭を眺めていたことだろう。
だって、あれは将来禿げる!
最初は十円禿=円形脱毛症、しかもてっぺんハゲだろう。
苦労してるのかな?
顔も、いかにも苦労性ですみたいな顔だしさ。
可哀想に…
可哀想って言えば、やっぱりいるもんだよね、デブ。
お決まりみたいな感じで1クラスにひとりはデブがいる気がする。
しかも、そのデブ、天然くるくるパーマの不細工顔だし。
デブでも愛嬌あればいいのに、…可哀想。
しかも、プリント回すときに、後ろ向いたら…ゴリラ顔!
びっくりだよ。肌黒いし。いや、まて。まだチンパンジーの方が似てるかも。
ゴリラって言ったら、後ろの後ろの席の子の方がそれっぽい。
あのデブがブタだとすると、ここは動物園ですかーと訊ねたくなるよ。
普通の子もいるけど。
やっと、先生の話が終わって、配布物も配られ、解散できるようになった。
おっせーの。
あ、ちなみに組は6組で担任の名前は田中。副担は宿野である。なぜか、ヤドカリと呼べと指示があった。
うん。なかなか面白い先生かも。
教室を出たら、親が待機している教室へ迎えに行った。
そして帰宅する。
どうしよ…友達、できそうにない。
そして次の日。学校だ。
なんで入学式の次の日に通常授業かな〜。
しかも、全部自己紹介とかで終わったし。
一体、何回繰り返したんだ?
『上谷美咲です。趣味は特にないです』
これ…このセリフ、明日も違う授業で言わなきゃダメかな。
自己紹介とか要らないから!
この日も友達は出来なかった。
というか、誰も友達になってないだろう。
休み時間でも、みんな席を離れず、無言で座っていた。
最初は仕方ないのかもしれない。
でも、先生たちが『6組は静かだね〜』と言っていたから、他の組はもう、騒がしいのだろう。
このクラスも早く、そうなってほしい。じゃないと空気悪すぎて死ぬ!窒息死するよ!
次の日。
私は、絶対に勇気を振り絞らなきゃいけないと思った。
何故なら…昨日は授業が昼までだったからいいものの、今日はお昼ご飯という、ひとりでいては、孤立してしまう行事があるからだ。
最初は、5組の友達(同じ中学)と一緒に食べようと思ったけど、そんなことをしては、6組内で孤立してしまう!
だから、勇気を出して一言『一緒にお昼食べよ』と言った。
もちろん、言った相手はブタとかゴリラとかの動物ではなく、普通の人間にだ。
言われた子は、もちろん、断るはずもなく、快く『いいよ』と言ってくれた。
この学校に学食というものはないので、必然的に教室での昼食タイムだ。
だが、このクラスは35人だ。
その中の2人でご飯を食べるのも、さみしいので、とりあえず、一度使ったなら何回も使え!と勇気を更に使い、一人で食べようとしていた2人を誘って一緒に食べた。
だが…失敗したッ!
なんと、最初に誘った子以外、みんな性格が暗かった。
どうしよ、とても気まずい。
私はここでも性格を作っているので、明るく振る舞っているのだが、その子達があまり反応してくれない。
それはもう真冬の海辺でひとり、はしゃぐ可哀想な子状態である。
そんな、気まずい昼食タイムが終わり、また授業になる。
だが、一度仲良くしてしまえば、話しかけるのは楽なことだった。
私は視力が悪いので、先生が黒板に書く文字が見えなかったりした。だから、友達になった子の席にささっと移動して、ノートを見せてもらった。
嗚呼、便利だ。
友達とはなんて便利な道具だろう。
今思えば、この時の私は最低な人間だった。