音波

序章  悲劇の物語
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それはまるで、おとぎ話に出てくるような夢のチカラ。

だが、人によってそれは悲劇を起こす忌まわしきチカラでもあった。

































地図の南の端に、大きな島がある。
そこの地は、気候もよく、人々は穏やかでなんの争いもなかった。

人は皆、好んでその地を訪れ、住み着いていった。
そして、数ヶ所に集落のような町や村ができていった。
だが、人が集まれば、争いの種ができることを、人々は気付かなかった。








そんな島のひとつの村に、ごく普通の幸せな家庭がありました。
両親と兄妹の4人家族。

本当に一般的な貧しくも裕福でもない家庭でしたが、両親は優しく子供にはこれ以上はあまりない家庭でした。


しかし…、






「きゃああぁぁぁ!」


村に、災いが訪れてしまいました。
村は火に覆われ、家が燃え、辺りは緋色に染まる。その中で上がる絶望の声。悲鳴。


火元は…人間だった。


ほんの数分前の出来事だった。
突然、光がその火元の人間に降り注いだかと思えば、その人間の周りが火の海になる。
その火はいろいろなものに燃え移り、今に至る。

「父さんッ!」

悲鳴の中で、子供の父を呼ぶ声が上がる。子供は、火の海の中心にいる父親に向かって駆けて行く。

「麻都っ来るな!」

父親は子供が火だるまにならないようこれ以上近づくなと指示を出した。

「やだッ!父さん、父さんっ」

「駄目だ!お前が火だるまになるッ」

周りにいた大人が、子供を押さえつける。だが、それでも諦めない子供は暴れ続けた。






























あれから数時間。
辺りは焼け野原と化していた。
たくさんの人が死んだ。
もちろん、その火元の人間も。

「どうして…なんで…、父さんに何が起こったんだよ…」

子供は、焼けた死体を見て、涙を流しながら問うた。

だが、答える者はいない。

周りはただ、家族の死に、友人の死に…、涙を流すだけ…。

「……る……ぃ…」

子供は顔を上げた。
そして、強く決意した。

「許さない…!!」
































子供が、かけずり回ってようやく手にした情報。

それは6年前、世界を騒がした1人の自分と同じ年頃の少年の存在。
その少年は、軍政府に保護されているはずだった。
だが、何が不満だったのかそこから逃げ出したらしい。

そして、その少年のチカラが世界に溢れ出した。

父は、そのチカラが体に宿ったのだ。そして制御できずに、家族を、村を、巻き込んで亡くなった。

「何が…不満だったんだよ!政府に保護されて、働きもしないのに食事を与えられて…」

何不自由なく暮らしていたはずだ。逃げる必要などない。

「あいつが…、あいつが逃げ出さなければ…」


殺してやる!

――――吉城寺奏ッ!!

























子供は誓った。






















父を使い、家族を、友人を、村の人たちを殺した少年に復讐をすると。































これから、幸せから不幸のどん底に落とされた子供――麻都の復讐劇が始まる。































すべては吉城寺奏を殺す為に。





















序章 悲劇の物語 <完>
 

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