音波

第1章 過ぎ去った日常
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ああ、火…火、火…


どこを見ても赤く燃え上がる火。



赤くて熱いソレに…



呑み込まれたのは――――





























「麻都〜!起きて」

覚醒を促され、ばっと起き上がる麻都と呼ばれた少年の瞳に映るのは、自分と同じ年齢…幼なじみの少女、子々である。

なぜ自分は、家族でもない子々に起こされているのだろう?と考えを巡らすと、ほんの1週間前の地獄の事件が脳に浮かぶ。

そう。麻都は、1週間前にとある事件で家族と家を失い、幼なじみである子々の家にお世話になっているのである。

「お・と!ぼーっとしない!」

もう太陽さんが顔出してるよ〜と言い、子々は早々に部屋を出ていく。
まぁ、ませてきた年頃の男女だ。着替えたりするところは異性に見られたくないし、見たくもないだろう。

麻都は、暗い思考を頭の隅へ追いやり、とりあえずパジャマを着替えることにした。

着替え終わると、部屋を出て、リビングへと向かう。

「おはようございます」

そこにいた、子々とその両親に挨拶をする。そしたら、みんな笑顔で挨拶を返してくれる。その笑顔につられて自分も、自然と笑顔が漏れる。

子々に促されて、テーブルの席に着くと、子々の母親のガネットが、麻都の前に料理を運ぶ。

「元気だして、しっかり食べなさい!」

今日から麻都もうちの家族なんだからね!

そう言うガネットの大雑把な笑顔に励まされ、はいと頷く。

まだ、家族を失って1週間しか経っていない。立ち直ることは少し難しいかもしれない。
だが、麻都にはやることがある。それは、全ての元凶である吉城寺奏に復讐すること。

麻都は、食べ終わると話を持ち出した。

「あの…、俺旅に出ようと思います」

突然のことに、子々とガネット、その夫のダリアまでもが驚いて目を見張る。
いち早く脱した子々はどうして?!とテーブルに身を乗り出して訊ねてくる。

だが、優しいこの一家のことだ。本当のことを言えば、止めてくるだろう。
だから、お世話になる訳にはいかないという理由で旅をしようと思ったのだが、

「子供がそんなこと気にしちゃ駄目よ!」

麻都。あなたももう大切な家族なんですもの…

ガネットの優しい言葉に続いて、ダリアもそうだと言ってくれる。
その優しさに涙が出そうになる。
子々の両親は、麻都の両親と仲が良かった。
だから二人も悲しいはずなのに、子供の前では泣かなかった。そして、余裕のない麻都を元気付けようとしているのだが、役不足だったのか?
ガネットとダリアはそう思った。だが、

「そうじゃない、です。」

麻都が二人の心を悟ったように、口を開く。そして、今度は新たな理由を言う。

「俺はこの世界に何が起こってるのか知りたい!ここ以外でも父さんみたいな人がいるかもしれない…だからっ」

真っ直ぐに、真剣に目を見て話す麻都の決意は固いものだった。

ダリアはため息を一つ吐くと、最後の確認をする。
本当に旅に出るのか、と。
その問いに、なんの躊躇いもなく頷いた麻都を見て、ダリア、そしてガネットも決めた。

「わかった。行ってきなさい」

「お父さん?!」

ダリアの言葉に子々が驚いて声を上げる。

「ダメだよっ!何が起こるか分からないんだよ?!それに麻都、ドジだしっ間抜けだし…っ」

なんとか麻都をひき止めようと、子々が無茶苦茶なことを言い出す。

それでも麻都が怒らないのは、子々が自分の身を案じていることを知っているからだ。

旅に出たら、本当に何が起こるか分からない。そんな危険な行為をさせたくないのだろう。

ガネットが子々の頭を優しく撫でる。
それで、少し冷静になったのか、お母さん…と呟いて、それから俯いてしまう。

「ごめんな、子々。ありがと」

麻都が言うと、子々は消え入りそうな声で馬鹿と言うと泣き出してしまう。

そんな子々を優しく抱きしめるガネットもまた、悲しそうな顔をしている。

本当に、いい家族だな…

麻都はそんなことを思いながら、自分の家族のことを思い出していた。

『麻都…』

優しく呼び掛けてくれる母。ガネットとはまた違う声音。

麻都はそれを頭から追い出すようにダリアと話しを進める。

「明後日にはここを出ていきます」

ダリアはその言葉に頷くと、必要なものは私たちが揃えるから麻都にはそれまで休んでいるように告げた。















































与えられた部屋に戻って、身仕度をする。そして、なぜか笑いが込み上げてきた。

(たった…1週間の付き合いだったな)

せっかく、もらった部屋だった。1週間前までは、一人部屋ではなく、妹と共同だった。
そんな少し前のことが、今はもう懐かしく感じる。

それはもう過ぎ去った愛おしい過去。










 
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