愛造物語

第2章 重なった影と繋いだ手
1ページ/1ページ



孤独の影は重なった。






そうしたら、





影の形がいびつになって思わず笑った。































「アルム!早くおいで」

青年が少女、アルメイニ=シードを呼ぶ。
青年、サグン=ソウバとはつい先日に出会ったばかりで、まだ完全には信用できずにいた。

だから、買い物をするために町を歩いていても、無意識的に距離を作ってしまう。

だが街は毎日込み合っていて、少し離れると、どんどん距離が広がる。

「もう!アルム、迷子になるぞ。」

アルムとはアルメイニの愛称である。

出会ったその日にサグンが決めた。

そのサグンは人混みをかき分け、アルメイニに手を差し出す。

アルメイニがしばらくその手を見つめていると、焦れたように「ほら」と手を繋ぐことを促してくる。

まあ、嫌ではないので、アルメイニは仕方なく手を握る。
ただ、手を繋いだだけなのにサグンは微笑んだ。

それが、なぜか嬉しかった。

昔、辛い生活の中でも手を繋いで一緒に笑いあった兄を思い出しす。

「………お兄ちゃん…」

 

その呟きに気がついて、サグンはアルメイニを少し拗ねたように見ながら言う。

「う〜ん、ボク的には兄でもいいんだけど…一応お父さんだからね?」

そう。天涯孤独だった少女は今は、サグンの養子として生きることになった。

もう何年も着ていて、色も変わりボロボロになった服は、新しく勝手もらった白いワンピースになり、手入れをすることなく伸ばされたせいでボサボサだった髪も、綺麗に手入れしてもらって艶を取り戻した。

感謝はしている。

だけど、サグンの年齢が年齢なだけに、父と思うのは無理がある。

そんなこんなで、不安気な顔をしていると心配をしてくれたのか、サグンは眉を情けないほど下げて問いかけてくる。

ちょっと申し訳ない。

「やっぱり嫌かな?ボクなんかが父親なんて」

別に嫌じゃない。だから素直に首を振った。
そうしただけで、サグンはみるみる元気を取り戻す。

「そっか!よかった」




















本当に、 …よかった

















その呟きはアルメイニには聞こえなかった。









































 

無事に買い物も終え、ふたりは帰宅した。
だがアルメイニにはまだ、そこが自分の家だとは思えなくて落ち着かない。部屋の中でうろうろとするわけではないが、縮こまっているのは確かだ。

そんな時に、優しい笑い声がする。

「アルム、そんなに畏縮しなくても…」

なおも笑い続けるサグン。
アルメイニは少し恥ずかしくなって顔を赤らめた。それを隠すために、抱いていた己の膝に顔を埋める。

だが、サグンはアルメイニの耳が赤いことに気づき、優しく微笑む。

「もうちょっとでご飯出来るからね。手を洗っておいで」

それに、無言で頷き答えると、アルメイニはとととと小走りで洗面所に向かった。

そんな後ろ姿を愛しく思いながら、サグンはディナーの最終段階――盛り付けに入る。

「よし!うまくできた」

ひとりでに満足していると、手を洗い終えたアルメイニが近寄ってくる。

サグンは頭を撫でてやり「できたよ」と教えてやる。

それに、やはり無言で答えるアルメイニだが、なかなか席に着こうとしない。

疑問に思って名前を呼ぶが、一向に動く気配をみせない。


怒らしただろうか…



そんな考えがサグンの頭を過る。

 
もしかしたら頭を撫でるとか、子供扱いしすぎたかもしれない。

だがそれは、アルメイニが口を開いたことで違ったとわかる。

「あの、あたし…お世話になってばっかで…」

そう言ったアルメイニをサグンは優しく抱きしめる。

要するに、アルメイニは何もせずに世話になっていることに、引目を感じているのだろう。

この子は…本当にいい子だ。

「いいんだよ。それはボクが望んだことだから…」

どこまでも優しい言葉にアルメイニの瞳は潤んでくる。


ご飯、冷めないうちに食べようか…


そう促されて、アルメイニは席に着く。



温かい。




胸もなぜだか暖かさが溢れてきた。













お兄ちゃん…
もしかしたら、あたし










お兄ちゃんの言ってた幸せに








出逢えたのかもしれない。










そばでは、サグンがあたたかい瞳で見守ってくれている。












あたしも、自分から幸せになる努力をしてみよう。













アルメイニはこの時から、少しずつ変わっていった。













重なった影と繋いだ手 <完>
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ