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□叶えたい…
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私の友達には、いつも早口で話す子がいる。
そして、暇だと早口言葉の練習をし出す。
ちょっぴり変わった面白い子。
今日は、そのおかしな子――里奈の家に泊まりに来ていた。
「ねぇ星見ない?」
わずか一秒ばかりで繰り出されたその言葉に頷いて、ベランダへ出る。
しばらく星を見ていると、突然、里奈がぶつぶつと何かを呟き始めた。
その奇妙な光景に驚いて固まっていると、ようやく耳が慣れてきて、里奈が何を言っているか聞き取れるようになった。
里奈は何度も何度も繰り返し同じことを呪文のように呟いていた。
“弟が幸せになれますように”
里奈の弟は、病弱で産まれてすぐに入院。今も病院でひとり、この夜を過ごしているのだろう。
その呟きを聞けば、里奈がどれだけ弟を大切に思っているかがわかる。
だが、空に祈って一体なんになると言うのだろう。
私は思い切って、里奈に訊ねる。
―――どうしてお空に祈るの?
私がそう聞くと、里奈は一度祈るのを止め、私を見てこう言った。
「空に祈ってるわけじゃないわ。私は流れ星にお願いをしているの」
流れ星に願いを叶えてもらうためには、星が流れる間に三回、願い事を言わなければいけないと、言われている。
里奈はいつ、流れ星が現れてもいいように、夜になるといつも願い事を呟いているのだと言う。
普段から早口なのも、願い事を叶えるための練習だと言う。
「そっか」
私が言うと、再び里奈は呟き始める。
弟が幸せになる不思議な呪文を…
なら、私も願おう。
どうか、里奈の願いが叶いますように…
流れ星が流れた。
人々は、それを見て祈った。
それぞれの願いを―――――…
叶えたい… <完>