愛造物語
□第1章 ひとりの少女
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少女は再び、影の正体を見上げる。やはり、逆光で顔は見えない。
だが、声を掛けられた以上、無視するのは気が引ける。
だから―――
「な、に?…あたしに…言っているの?」
控えめに答える。
影は、少女に手を伸ばす。
「……っ!」
少女は殴られると思い、肩を震わせる。自分は何か悪いことをしたのだろうか?
だが、予想に反して、その手は少女の頭に優しく降ってきて、ポンポンと撫でた。
少女は疑問符を浮かべ、影を見る。
影は顔をうつむかせて少女を見た。
そのおかげで、少女は影の正体を見た。
それはまだ年若い青年だった。
「そう。君に言ってるんだよ」
君、名前は―――?
少女は戸惑った。
簡単に名前を教えていいものか…
だが、意外にも少女の口からはあっさりと自分の名前が出た。
あたしは…、
青年は微笑んだ。
そして、
「これから宜しくね」
と告げた。
-ひとりの少女- <完>