忍人・短編

□はぷにんぐ☆キス
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今日も今日とて、千尋は色々な仕事と『格闘』していた。
言い方が奇妙なのは分かっているが、正に格闘としかいいようがないのだ。
中つ国を復興し、女王となった、まではいいのだが…、そうなってくると、今度はそれらしく振る舞う、という事が要求される。
つまり、今までは戦闘という事でちょっと…いや、かなりお転婆な事をしても、『まあ、いいか』と周りがみてくれていたささいな事も、今は『一国の女王として、それはいかがなものか?』となってしまうのだ。
『この国の女王としての品格を持って行動しなさい』
毎日のようにそんな事を誰かに言われ、かなり凹む。
一体『女王の品格』というのはどんなものなのだろう?
普通の女子高生がいきなりこちらの世界に来て、軍を引っ張り、国の復興を果たす、なんて事をやっている間に、そんな事は勉強してこなかったのだ。
いきなり結果を出せ、と言われたても…という気持ちになる。
毎日それを考えてはいるが、結論が出ず、千脇はため息をついた。
「ちょっと気分転換しようかな?」
ちょうど具合よく、ひっつき虫のように千尋の側に誰かしらいる釆女も、仕事のサポートをしてくれている風早や柊もいない。
千尋はこっそりと入り口付近にも誰もいない事を確認し、こっそりと部屋を出た。

さて、部屋を出たのはいいのだが、一体何をしようか。
千尋はうーんと唸った。
ストレス解消には、体を動かす事とか、本を読むとか、考えてみたのだが、体を動かすにも重い衣装でやるのは大変だし、下手に衣装を汚せば、後で小言を喰らうだろう。
本を読む…にしても、ここにはそんな娯楽的な本はなく、難しい政治やらなにやらのモノを今読んだら頭が痛くなる。
どちらも逆にストレスを被りそうなので却下だ。
と、そこまで考えた時、千尋の頭に、ある案が浮かんだ。
「ちょっと高いところから、景色を眺めてみようかな?」
いい景色を見る事は、癒しにもなるのだ。
だけど、今の状態では一人で宮殿を出るのもままならない。
護衛の一人や二人は必要で、ゆっくりと眺めるなんてできやしない。
…護衛。
千尋はそれを考えた時、一人の人物を思い浮かべた。
…彼だったら逆に嬉しいかも。
側にいるとドキドキして景色どころの騒ぎではないが、でも、近くにいてほしい。
だが、そんなわがままを言ってはいけない。
自分がそうして欲しいと言えば、周りも彼も、『陛下の命令』に従ってくれるかもしれないが…そんなのは嫌だ。
彼は今、中つ国の軍の中心として忙しく働いているのに、その邪魔をしたくなかったし、千尋自身もそんなわがままを言って、その人を縛り付けるのは嫌いだ。
「うん、やっぱり止めよ」
千尋は一瞬考えた事を却下し、最初に考えていた案を決行する事に決めたのだった。

千尋が考えたのは、宮殿側に生えている、大きな木に登る事。
幹や枝はしっかりしているし、登りやすいし、なにより繁った枝葉が千尋の体を隠してくれるので、なかなか見つかりにくい。
千尋は周りに人がいないのを確認すると、スルスルと木に登りだしたのだった。
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