たからもの!

いとしいのはだあれ
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何がなんだか分からないうちに、俺の身体は壁へと激突した。
後頭部と背中に激痛が走り、頬は熱く口の中が鉄くさい。
ボスの満足そうな表情を視界に入れるまで、
あぁ、殴られたのか、と認識するのに時間がかかった。

「いきなり殴るのは無しだろ、ボスさんよお」
「・・・フン、入るんなら入れ」

任務の報告書を届けにボスの書斎まで来たはいいが、
扉を開けるや否や殴るのだけは勘弁して欲しいものだ。
おまけに気配を消すもんだから、こちらはまったくの不意打ちなわけで。

「何ブツブツ抜かしてやがる」
「いや、何でもねぇ」
「・・・報告書か、見せろ」
「ん、」

一通り報告が終わり、ボスに背を向け書斎を出ようとしたところで、
背中と一緒にぶつけた後頭部がズキン、と痛む。

「っあ、?」
「・・・・?」

気にも止めてなかったが、どうやら打ち所が悪かったらしい。
ヴァリアーの幹部ともあろう者が、受身のひとつやふたつ取れないのが情けない。

そうは思っても、既に遅いのだ。
突然足に力が入らなくなり、俺は両手を床に着いた。

「てめぇ、何して・・・、」

訝しげに眉間に皺を寄せ、俺を睨むボスと目が合った途端、俺の意識は途切れた。








「・・・・あ゛?」
俺が意識を取り戻したのは、暖かなベットの上だった。
ふと香る、ボスの匂い。このベットは、ボスの・・・、

「カスが、やっと起きたのか」
「・・・?」
「勝手にぶっ倒れてんじゃねぇ」

声のした方を向けば、ボスはベットの側に腰掛けていた。
それも、いつもの不機嫌さより3割り増しといったところか。

「てめぇは本物のカスだろ。いや、それ以下か。ミジンコめ」

ボスの口からは次から次へと悪態が出てくるが、
俺の頬に感じる暖かな手は、間違いなくボスのものだ。
この手が俺を痛めつけ、自惚れさせ、快楽へと突き落とす。

「・・・、ボス、頭が冷てぇぞ」
「氷枕敷いてんだから当たり前だろ」
「・・・・ボスさんがやってくれたの、か?」

急に俺の頬を撫でる手が止まったのを考えると、おそらく図星なのだろう。
部下のために氷枕を用意させるボスも愛おしいが、
わざわざ自ら用意したなんて、嬉しすぎる。
自然と頬の筋肉が緩み、ボスを見上げる顔がにやけていくのが分かった。

「気色悪ぃ」
「い゛、」

力いっぱい頬を抓られたが、その痛みはほんの一瞬で、ボスの手のひらは俺の瞼を覆う。

「もういい、黙れ。寝てろ」
「・・・そうさせてもらうぜぇ」

本当は、まだ片付けなければいけない書類やら剣の手入れやらがあるのだが、
この幸福感をもう少し味わいたいがためにそれらは無視することにしよう。

くしゃりとボスが俺の髪を撫で、それに心地良さを感じてうっすらと瞼を開ける。
XANXUS。そう呼びたかったのに、あまりにも近すぎるボスの顔に驚いて声も出なかった。




「また後で様子見に来てやる」
「・・・・・」



バタンと音を立て扉が閉じられるまで、俺の意識はまたどこかに飛びかけていた。
本当に、なんてことをしてくれたんだ、アンタは。


(頭痛の原因は、どうやら打撲以外にもありそうだ)


―いとしいのはだあれ―



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