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□特別じゃない毎日も
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口には絶対出せなかったけれど
俺はいつだって不安だったんだ

毎日毎日
一日一日を特別にしないと
君はどこかに行っちゃうんじゃないかって

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特別じゃない毎日も
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「笹塚さん…!」
「笹塚さんってば…!」

「……え?」

見ると弥子ちゃんは盛大にふくれていて
じっと責めるようにこちらを見ていた

「え?じゃないですよ!」

ついついぼんやりとしていた
煙草の煙を吐き出し、何と返事をする
できるだけ、悩んでいるのがばれないように
自然に自然に、返事を返した
弥子ちゃんはふふっと小さく微笑んで
「何か悩み事ですか?」なんて聞いてくる
下から俺の顔を覗き込んで
反則だろそれ
煙草の煙を、もう一度吐き出した

「私も、悩んでます」

季節は2月
まだ春にはほど遠く、窓の外では冷たい風が木々を揺らす

「何? 悩みって」
俺でよければ聞くけどなんて言ってみたりして

弥子ちゃんは俺のネクタイを指さし
小さな声で言う
「誰にもらったんですか?」
いたずらをする子供のように、弥子ちゃんは笑っていた
「ああ、等々力から…て、誰に聞いた?」
どうせ石垣あたりだろうと思うのと同時に、背中に冷や汗
ああ、やっぱりまずかった?
弥子ちゃんの顔を覗き込むと、やっぱりいたずらっ子のような笑みを浮かべてこちらを見ていた
「…ごめん」
そう言ってバレンタインに等々力からもらったネクタイを外して床に投げ出す。
「私意外の人にもらった物を笹塚さんが着けてると、やっぱり私、嫌だなって」
我侭なのは、知ってるんですけど
そう言って弥子ちゃんは笑う。そして俺の胸の中に飛び込んでくる。

「私は言いましたよ、笹塚さんの悩みも言って下さい」

ああ、何で俺、高校生に慰められてるんだ?
その言葉が、仕草が、全部が愛おしかったけれど
出てくるのはなんだか冷たい言葉達

「弥子ちゃんは、俺なんかといて楽しい?」

ずっと気になっていた
高校生は、そういうお年頃だから
毎日が特別じゃないといけないんじゃないかって
弥子ちゃんは一瞬驚いたような顔をして
その後ゆっくりと、糸をほぐすように微笑む

「笹塚さん忙しいのに…」

それなのにこうやって会ってくれて
悩みを聞いてくれて
ネクタイはずしてくれて
抱きとめてくれて
悩みを話してくれて

私は毎日
笹塚さんの側で笑って
泣いて
笹塚さんも笑ってくれて

「こんなに幸せなのに、何が不安なんですか?」

俺は小さく笑って
それから弥子ちゃんの細い体を抱きしめる腕に力を入れた

そうか
こんな毎日を積み重ねて行けば
それでいいのか

君が笑って
君が泣いて
俺も笑って
俺も泣いて…それはないか

それで、いいのか

腕の中で、弥子ちゃんはくすぐったそうに微笑んでいた
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