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□手を繋いで
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夢を見た
影が追いかけてきた
私は走って逃げていた
薄暗い人の気配がない町を
ただ、無我夢中に走っていた
肩に鋭い痛みを感じて
振り返る
そこは、薄暗い部屋の中。カーテンを透かして月の光がやんわりと射し込んでいる。
身体中から冷や汗が吹き出していた。
『…夢か』
ほっとして胸をなでおろし、ふと隣で眠る笹塚さんに視線を落とした。
額にうっすらと汗をかいて、相変わらず難しい顔をして眠る笹塚さん。時々眉間に皺が寄って、まるで嫌な夢をみているみたい。
そっと頬に触れてみると、ゆっくりと目を開ける。
「…弥子ちゃん」
大丈夫ですか? って聞いたら、何が? なんて返ってくる。
「嫌な夢みてたのかなって」
笹塚さんは小さなため息をついて、額に手をやる。
「弥子ちゃんには敵わないな」
哀しそうに、寂しそうに笹塚さんは笑った。
同じベッドでくっついて眠って、2人でそれぞれ嫌な夢をみるなんて、なんだか可笑しかった。
「ねぇ、笹塚さん…手繋いで寝ましょう? 」
了解も得ないで、笹塚さんの大きな手に指を絡める。
笹塚さんは何も言わずに、ただ天井を見つめていた。
私は小さな声で、自分が見ていた夢の話をする。
すると笹塚さんも、苦笑しながら自分が見ていた夢の話を聞かせてくれた。家族が殺された、その忌々しい夢の話を。
私は笹塚さんの耳元に口を寄せて囁く。
「笹塚さん、明日も仕事ですよね?」
「あぁ、うん」
「じゃあ寝なくちゃ」
「…ん」
「大丈夫ですよ」
手を繋いで寝れば
きっと同じ夢がみれますよ
「そりゃいいな」
笹塚さんは笑って、目を閉じる
同じ夢をみましょう
もう、怖い夢は終わりにしましょう
これから見る夢が、例えば怖い夢だとしても
2人一緒に同じ夢をみましょう
そうすれば、何にも怖くない。
手を繋いで、同じ夢をみましょう
そう、できれば
これほどにない幸せな夢を