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□幸せ
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相変わらず血の気ないなぁ
きれいな髪の色だよね
うわあ! さらさら!
肌とか…私よりきれいかも
隈、また濃くなってる?
疲れてるんだろうなぁ…

カーテンの隙間に覗くのは、白み始めた空
かすかに聞こえるのは鳥の声
少しでも動いたら笹塚さんが起きてしまう気がして、身動きがとれない。
大好きな人の暖かい腕の中で大好きな人の寝顔を眺める。
それは些細な幸せ。

普段はあんなに無愛想なのに寝顔は意外に抜けてるんだな
口開いてるし
なんか可笑しい
可愛いなぁ

声を出さずに目だけで笑う
自分の側で力を抜いてくれるのが、なんだか嬉しい。

やっぱり、かっこいいな
こんな人が、本当に私の彼氏でいいのかな?
ちょっと幸せすぎるかな?
私高校生なのに、子供なのに、いいのかな?
今までどんな人を好きになったのかな
どんな人に好かれたのかな?
どんな景色を見て来たのかな
どんな事を考えて来たのかな

15年の差は大きくて、遠くて
時にふっと切なくなる。本当にこれでいいのかと不安になる。周りの視線に押しつぶされそうになる事だってある。疑う事だってあるし、きっと疑われる事もある。考えが合わないときだってあるし、大人と子供の差をその度に実感して、取り残されたような気持ちに陥る。

不意に寂しさが襲ってきて、ぎゅっと目を瞑る。
そしてそおっと目を開ける。
笹塚さんの口がすっと動いて、笑う
少しだけ腕に力が入って
目を開ける

「あんまり見つめられると照れるんだけど…」

頬をぽりぽりと掻いて呟く

「お…起きてたんですか?!」

今起きた、と笹塚さんは笑った。
まだ眠たそうな瞳がじっと弥子を見つめる。
顔に熱が集まるのを感じて、毛布に顔を埋める。
「…弥子ちゃん?」
心の底から不思議に思っていそうな声

全く…
「性格悪いです」
恥ずかしいじゃないですか、あんなに見つめていたなんて

笹塚さんの大きな手のひらが頭をぽんぽんと優しく叩き、それから優しいキスが降ってくる。
「おはよう」
穏やかな、優しい笹塚さんの声。
独り占めしている私は、幸せ者。
真っ赤になった顔を上げて、もう一度笹塚さんの顔を見つめる。
「おはようございます」
カーテンから朝の光が差し込む
柔らかな光に包まれた、ある朝の出来事。

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