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□痕
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無理しなくていいんだよと笹塚さんは笑った。可笑しそうに目元を緩めて、私の頭を撫でながら。
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痕
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目を瞑って、優しい匂いのする笹塚さんの鎖骨に唇を落とす。
笹塚さんはモテるから、密かにこっそりと印をつけておきたい。
この人は私の物ですよって
あなたなんかに渡しませんよって
それなのに
なかなか印はつかなくて、さっきから半ばやっきになって唇を落としていた。
そんな私の事を、笹塚さんはずっと微笑みながら見つめていた。
「どうやればつくんですか? 痕って…」
困り果てて尋ねると、笹塚さんはしてやったりと笑みをこぼす。そして、ふっと笹塚さんの顔が近づいてきたと思ったら、シャンプーの微かな香りと煙草の匂いが絡み合う。
首元に微かな痛みと熱い吐息
「そこじゃ、見えちゃいます」
少し驚いて反論するけれど、笹塚さんに勝てるわけもなくて「見せるんでしょ」と言い返される。
頬を膨れさせて上目遣いに睨めば、大きな掌が頭を撫でる。
子供扱いをされているみたい。
私はもう一度、唇を落とす。
何度も何度も
今度はよく人目につく首筋へ。
印をつけたかった
私の物ですよって
皆に分かるように
うっすらとした赤い痕は、思った以上に目立つものになってしまった。
鏡の前で唖然とする笹塚さん。俺も仕事上立場ってものがとかなんとかぼやいていたけれど、言うことは一つ。
「見せるための痕でしょ? それに、お揃いです」
自分の首筋に手をあてて
にっこり微笑む。
笹塚さんは盛大にため息をついて、にっこり笑う。
もう一度、あの熱い唇が首筋に落ちる。