ナイトメア・ラビット

□序章 「予兆」
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「以上が今回の仕事内容となります」
と、いつものように通信で任務を言い渡される。
「了解。」
「まっかせろって!」

おそらく見た目も中身も正反対な男らが、それぞれ了承の返事をする。

「遺跡発掘とかまさに男のロマンじゃねーかっ!
アンリ!!早く行こうぜ!!」
目を輝かせ、拳をふり挙げ丘から遺跡を見下ろす。

「ちょっ!話聞いてた?俺たちは発掘さ・れ・た遺跡物の!移動の護衛につくだけだってば」

これまた対照的に1人先に突っ走りがちな同僚を諫める。
「遠足は家に帰るまでが遠足なんだぞっ!
お菓子は300円以内なんだぞっ!」

…いらない情報をどうもありがとう
「(お菓子…?)それは分かってるけど、前みたく
(オレ、手伝う!)
とか言って器物破損されると困るんです〜!」
思い出すだけで頭が痛くなる出来事だ。
つい3日前のことだけど。

「…って、いないし…」
相方はもうすでに丘の下だ。
はぁ…と、人知れず溜め息を漏らす、哀愁漂う青年、
アンリ・ヴィ・ラルシエルはいつもの如く願った。

今日は何事も起きませんように

と。



「つまりませーん!!」
と、一匹のバカ野郎がバカでかい声でシャウトする。

「いいんです!つまらなくても!」
と、1人のメガネがこれを収めようとする。

「よくねぇ!!
遺跡からの脱出っていったら! アレだろ!?後ろからダンゴ虫みたいな岩がゴロゴロ転がってきたり!
変なスイッチ押しちゃって、上からトゲトゲの天井が落ちてきたり!
謎の未確認自立型魔導機械とかが襲ってきたり!
遺跡全体が崩壊し始めちゃったりするもんだろ!!?」

…こいつ、ランファ風に言うと脳にうじ虫でも湧いてるんじゃなかろーか。

「アホか!!発掘員の安全のために来てるのに、そんな物騒なこと言うな!」
バカ野郎の頭に思いっきりゲンコツをお見舞いする。

「いってーなっ!!何すんだ!」
そうとう痛かったのか涙目で頭をおさえる。
まぁ、バカ野郎にする手加減なんて持ち合わせてないからね、当然か。

「遺跡っつったらどこもそんなもんだってシズカが言ってたぞっ!!」

元凶はあなたでしたかーーー!!
ただでさえ騙されやすいバカに、変な事を吹き込まないで下さい…閑先輩…

「あー…カイト?閑先輩は…

アンリが理屈を説こうとした時ーー

すこし離れたところで未確認の魔力反応がでた。
途端に話を止め発掘員の身の安全確保にあたる。
その数7人。

「カイト!俺は人避けのバリアを張って発掘員を安全な場所まで送る! おまえは…」
「未確認を叩けばいいんだなっ!
よしっ!まかせろ!」

よくいう囮作戦だ。
まぁ、うちのフロントアタッカーであるカイトに任せておけば、たいていの獲物は即粉砕されるから簡単に言えるんだけど。

「頼む!」

そう告げると、アンリは遺跡脱出の最も安全かつ最短ルートを脳内ではじき出す。

「皆さん!予定外ですが、急ぎ、脱出を試みます。落ち着いて付いてきて下さい!」
すこし距離をおいて未確認がうろついているとも知らず、
今日の成果物について話していた人々の顔に緊張がよぎる。
「大丈夫です。今、私の同僚が引き離してくれています。
出口はもうすぐですよ!」

不安そうな発掘員らを励ましながら、急ぎ足で出口をめざす。


「よし、出口だ!」

ようやく遺跡を出ると、外は入った時と変わらない、気持ちがいい晴天だった。
すこし離れたところで、アンリは転送魔法を展開する。
向かう先は言わずもがな、時空管理局。
「転送の準備ができました。皆さんは発掘物を持って、管理局に!」

そう告げると、安心したのか、発掘員らの肩の力が抜けていくのが分かる。
「本当に、ありがとうございました!」
転送箇所に全員つくと各々お礼の言葉を述べる。

「管理局の方って、忙しいのか、私たちみたいな小さい団体にはついてくれないのよね。」
「その点、アヴァロンは客を選ばないからいいよね」

そうそう!と周りで同意の声があがる。
「まいどご贔屓に」

アンリは被っていた帽子をつばをもって少し浮かて、ニッコリと答える。
ある意味サービス業のうちにとって、こういうことは大事だ。

「またのご利用を、お待ちしております。」

手を胸にあて深々と礼をする。
こういう紳士風な振る舞いが、一派遣員であるにも関わらず女性ファンがつく所以だということは、本人は知らない。

それを良いように利用している女豹の如き女は、いる。(経済的な意味で)


発掘員らを送り届けた後、アンリは本日二度目の溜め息をつく…

「…近代ベルカ課フロントアタッカー、カイト・ドリュードと別行動開始時から55分経過…」

奴の移動速度を考えると

遺跡からの脱出:5〜10分
遺跡出口からここまでの移動:3分

カイトはああ見えて(野生の勘か…?)最短ルート検索能力は優秀だ。

………明らかにおかしいよね、このタイムは。
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