Novel
□チョコの数
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「冬、チョコ何個貰った?」
午後6時30分、仕事を終わらせ、十番隊に来ていた市丸は日番谷に尋ねた。
今日が2月14日、バレンタインデーという日だからだ。
「……三輪さん」
普段冗談を言わないような日番谷の口から出た台詞に市丸は少し驚き、
「は?それは有名人の名前やろ」
とそのままツッコミを入れた。
すると日番谷は盛大に溜め息を吐き、だらりと机に伸びてしまった。そして突っ伏したままぼそっと呟いた。
「303個。はぁ…、チョコレートは嫌いじゃねえけど、こんなにどうしろってんだよ……」
呟かれたのは、チョコレートを貰えない者達にとっては幸せな悩みだと思われる事であった。寧ろ嫌味と言ってもいいが。
「303個か…。相変わらず多いんやね。とはいえボクもいっぱい貰ったんやけど」
「何個貰ったんだ?」
「302個」
「はあっ!?」
日番谷は驚いてバッと顔を上げた。
市丸は変わらず狐顔でにこにことこちらを眺めている。
「いやー、今年は1個差で負けてもたなぁ」
頭を掻きながら市丸は言った。
日番谷はというと、信じられないといった表情のままだった。市丸が女性死神陣に意外と人気がある、というのは松本に以前聞かされて知ってはいたものの、まさかこれほどとは思っていなかったのだ。
そんな事を思っていて、一つひっかかる事があった。
『今年は』?
「今年は、ってどういう事だ?」
日番谷が尋ねると、市丸はきょとんとした。
「あれ、話した事あらへんかったっけ?ボク、今まで何だかんだ言いつつ、バレンタインデーに貰ったチョコレートの数、キミに負けた事あらへんかったんよ」
「…マジで?」
「ホンマや」
それを聞き、日番谷は苛立ちが込み上げてきた。
「そんな……」
市丸にチョコレートをやった者達への嫉妬からではない。
「お前なんかに負けてたなんて……!」
ただ、市丸より貰ったチョコレートの数が今までは少なかっんだと知ったから。
要するに、負けず嫌い。
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