Novel


□氷原に死す PROMISE
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氷原の夢を見る





氷輪丸の夢を見るよりもっと前の夢。



霜天の下。
「誰か」がいた。


「誰か」はその霜天を見上げていた。

やがて、その「誰か」は俺の気配に気付いたのか、此方に目を向けた。
その目は菫色でとても穏やかだったけれど、同時に酷く哀し気でもあった。



「誰か」は俺の名前を呼んだ。


「冬獅郎」と。


それは音として俺の耳に届かなかったけれど、確かにそう言ったように思えた。


俺はその時「誰か」の事を全く知らなかった。けれど何故か、懐かしさが込み上げて来て、俺はその「誰か」へ駆け寄った。


「───」


それは「誰か」の名前だった。自分でも何と呼んだのか、わからなかったけれどそれはその「誰か」の名前だった気がした。




俺は「誰か」の腕の中飛び込んで、抱き締めて、何度もその「誰か」の名前を呼んだ。

「誰か」も同じように俺の名前を繰り返し呼んでいた。



その時、急に周りが寒くなって「誰か」は「時間だ」と言った。


氷原の中、離れ行く唯一の「ぬくもり」は俺に最後、こう囁いた。


「また会おうな、冬獅郎。いつの日か、必ず───」











霜天の下、出逢った「誰か」は一体何者だったのか。



それを知るのはそれからずっと後で、その出逢いが全ての始まりだった───。








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