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□蝉の声とアイスクリーム
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「暑い」

「せやな」

「蝉とか消えればいいんちゃう?」

「それは…」

暑い暑い夏の日
俺は愛しい恋人に誘われて公園にきてみれば。
暑いだの蝉が消えればいいだのと
なにか用があったのだろうに、それすら忘れてワガママモード全開。

「蔵、」

「あ。アイス売ってるやん、謙也買うてきて!」

俺の呼びかけを遮ってアイスを買ってこいとぬかしたこいつは何事もないように鼻歌なんかを歌ってる。
のんきな奴め。

仕方ないから、アイスを買うて蔵の待つベンチに戻ると「遅い」と怒られた。
ちくしょう。ならお前が買いに行けや。
そんなこと言えるわけもなく(言ったらぶん殴られる。多分。)
「堪忍な」といってアイスを渡し、隣に座る。

「溶けてる…」

「ちょっとくらいええやん。」

「せやから走れば…はあ、自慢の足が泣いとるで?」

「おまえなあ、…」

何か言い返してやりたかったのに、あんなに綺麗に笑われたらなにも言い返せんっちゅー話や。

白いアイスを舌で掬って食べる白石に顔が熱くなっていく気がしたから
目の前を横切る人々を眺めて気を紛らわす。

「謙也、少しいる?」

不意に呼ばれて視線を蔵に戻すと、口の周りにちょっとアイスがついていた。
健全な思春期男子である俺は少なからずいかがわしい想像をしつつ
蔵の口の周りについているアイスを舐めとってやった。

「ごちそーさん」

そう言ってやると、蔵は真っ赤に頬を染めた。ごっつかわええなこいつ。

「ッ…うっさいわ、ヘタレ」

返ってきたのはムードのかけらもない言葉やったけど。

(たまにはこんな休日も、ええかもな)

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