小説

□白の喪失
1ページ/1ページ

赤い鮮血が視界を埋め尽くした。



「ナナリー…!」
シュナイゼルは異母妹へと手を伸ばした。
その様子が見えてるかのように、少女は悲しげな笑みを異母兄へと向けた。
「ごめんなさい。シュナイゼル兄さま。私はお兄様の負担になるくらいなら…」 ナナリーは不自由なはずの足で車イスから立ち上がり、空へ身を投げた。
伸ばされた腕は届かず、華奢な体が宙を舞った。


ルルーシュは名前を呼ばれた気がして、後ろを振り返った。目にした光景に息を飲み、声を張り上げる。
「ナナリー!!」
50メートルはある建物に最愛の妹がいた。どれほどの距離があろうと彼がナナリーを見間違うことはない。
名を呼び駆け出そうとした瞬間、あろうことか、彼女の身が宙に投げ出された。
まるで天使が舞い落ちるようにナナリーが落ちていく様子が、ゆっくりとルルーシュの目に焼き付く。
考えるよりも先にルルーシュは妹を受け止めようと走り出した。必死に手を伸ばしたが、けれど、間に合うはずもなくナナリーの体は無惨にも地に叩きつけられた。
「ナナリーーーーーっ!!」 白い服が赤く染まり、小さな体から止めどなく血が溢れてゆく。
妹の前で膝をつきルルーシュはナナリーの体をかき抱いた。
カランと虚しい音をたてゼロの仮面が地に落ち、ルルーシュの紫水晶の瞳が露になる。
「ナナリーどうして。ナナリー。ナナリーー」
慟哭が世界を震わすかのようであった。
ルルーシュはナナリーの体を抱き上げるとナナリーが投げ出された建物を見上げた。
「……っつ」
そこにはかつて敬愛していた兄の姿があった。
普通であれば、視認することの出来ない距離にありながら、ルルーシュの王の瞳は見たくもないものを容赦なく突きつけた。
「…っシュナイゼル!!」
ルルーシュの瞳が憎しみに燃え黒紫へと色を変える。
「お前がナナリーを!絶対に許さない」
バキリとゼロの仮面を踏み潰しルルーシュは叫んだ。
呆然とした顔をしていたシュナイゼルは、身を切るような叫びに悲しげに瞳を伏せた。
――今さらそんな顔をしたところで!


ルルーシュは世界を呪い、捨てられなかった優しさを捨て、優しかった過去に背を向け復習を誓った。
ナナリーの為ではなく、ただ己の思いのためだけに。



さよなら。愛しき人よ。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ