僕は気づいた時から僕で、それ以外僕には他に何もなかった。
自分の存在する意味なんて解らない。
でも、僕は生きていて、死ぬのが嫌だから生きるため言われるままに他の誰かを殺した。
だから僕にとって、誰かを殺す事は呼吸するのと同義語。
意識をして、呼吸する人間はいない。誰も呼吸する事に罪悪感を覚えない。
それが生きるためのごく当たり前の行為で、それ以外方法を知らないから。
その行為を悲しいなんて、思ったこともなかった。怒りも嬉しいという感情も、言葉と情報だけ。
曖昧な形のないそれを、教えてくれる誰かは僕にはいなかった。
強いて言えば畏怖と侮蔑と、…後はたまに、哀れみの視線だけが他人から持たされるものだった。
世界は僕を必要としない。僕も必要としない。
死にたくないから誰かを代わりに殺し、そのために邪魔ならまた別な誰かを殺し。
ただ、生きるだけ。
何もない僕は、ただ、そうして生きるだけ。


そのはずだった―――



「……タンジョウビ?」
何だっけ、それ?
聞きなれない単語に、僕は思いっきり怪訝に呟いた。
「何だロロ、自分の誕生日を忘れたのか?」
すると、目の前の少年は仕方ないヤツだなと、微苦笑をもらす。
それを見た僕は内心、複雑だった。
忘れるも何も、僕にそんなものはない。
身内もなく、気づいた時から、今までずっと軍の中でも、裏の仕事をしていた僕には、推定年齢はおおよそで理解していても、生まれた日にちなんて解らない。
だから、今日この日を祝ってもらうのは、本来は僕じゃない。
「会長たちが後で盛大に祝ってくれるそうだ。覚悟しとけよ?」
「う、うん…」
話を合わせるためとりあえず頷いてみる。
……盛大、ね。
生徒会の面々を思い浮かべ、僕は気づかれないようひっそりとため息を吐いた。
僕はあの人たちが苦手だ。強引というか、無茶苦茶というか。正直あまり関わり合いになりたくない。
「と、その前にこれは俺からだ」
げんなりそんな事を考えていると、少年がふいに僕の目の前にきれいにラッピングされた、小さな箱を差し出した。
「?」
「誕生日おめでとう、ロロ」
「っ!」
祝福の言葉と優しい微笑み。
偽りからきているものだと頭では理解しているはずなのに、心はどうしようもなく震えた。
「どうした?」
「ううん。…ありがとう兄さん。開けてもいい?」
恐る恐る上目遣いに尋ねると、どうぞと返事が返ってきたので、僕は焦る気持ちを押さえつつ、丁寧に包装紙を剥ぐ。
「……これ……」
緊張に震える指先で、中に納められたものを手にとる僕の様子を、少年は照れているというより、どこか困ったように見つめる。
「少し、少女趣味だったかな?嫌なら嫌といってくれ。別なものを用意するから」
記憶を改ざんされる前に用意したのか、もしくは心の奥底にその断片があったのか。
箱の中から出てきたのは、小さなハート型のロケットだった。
僕にはそのどちらかは解らなかったが、明らかに女性が好みそうな、可愛らしい小物である。
「…やっぱり気に入らなかったか?」
僕が何も言わず、黙ってロケットを見つめていたのを、少年は僕が意にそわないものを貰い困っていると思ったらしい。
僕の手からロケットを取ろうと、手が延びてきた。
それに気づいた僕は考えるより前に叫んでいた。
「だっ、駄目!」
咄嗟に取られまいと固くロケットを握りしめた。
「これは僕のだ。僕が貰ったんだから!!」
「ロロ…?」
僕の態度の豹変に少年は瞠目を見せたが、僕自身も自分が信じられなかった。
自分で言うのも何だが、僕は今まで感情的に声をあらげた事がなく、そして、何かに執着しようとした事もなかったのだ。
どうして……?
本当は僕のためのものじゃない、今目に映るものは一時の偽りでしかないのに―――。
自身に問いかけてみても、戸惑いばかりが心を波立たせるばかりで、明確な形にはならなかった。



あの時から、僕は度々考えるようになった。携帯電話のストラップとして、揺れるロケットを見る度に以前の何もない僕の中に、違和感が沸き上がる。
任務に忠実であろうとするればするほど、その心底で逆に強く願う自分がいる。
どうして?どうして僕は……?
何も、他者には望まない。望んだところで、何の意味もない。誰の世界にも僕はいないのだから。誰も、僕を個として見てくれていないのだから。
それでも、これは偽りだと頭が理解していても、初めて知った温かな人の心と居場所は僕を混乱させる。
もっと、ずっとここに居たい。
この人の傍にいて、優しくされたい。
僕だけを見て、僕だけを愛してほしい…。
多分、それは叶わない夢。いつかは自分の手で終わらせなければならない、泡沫。
それでも心は願う。どうしようもなく、期待してしまう。

兄さん僕は……。

その先にある言葉がなんなのか。今の僕には解らない。
だけど、振り向いてほしい。
気づいてほしい。僕がここにいることを。
あなたが望んでくれたから、僕はここにいるのだから…。









二期の最初の頃、ロロが気になって気になって書いたものです。
ルルーシュの気持ちは解らないでもないが、ロロの心情を思うと複雑で…。
ある種二期のキャラの中で一番気になるコです。

小説(シリアス編)

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