「誕生日おめでとう〜」
パァンと景気良くクラッカーが鳴らされ、辺りに紙吹雪が舞う。
室内は簡単にだが装飾され、皆が囲むテーブルの前にはホールドサイズのケーキが陣取り、その真ん中のチョコプレートにはデカデカとこう書かれていた。

『リヴァル誕生日おめでとう♪』

「あ、ありがとうございます〜」
紙吹雪を頭にのっけたリヴァルは感動に目を潤ませ、ローソクの火を吹き消した。
「だから、クラッカーは飛び散らないタイプしようって言ったのに…」
「いいじゃない、この方が盛り上がって」
床に散乱するクラッカーの残骸を目に、後片付けが面倒だとぶつぶつとぼやくルルーシュに、シャーリーは宥め笑う。
「これ、つまらないものですがボクと兄さんからです」
「ありがとう、ロロ。でもつまらないものって…、どこかのおばさんじゃあるまいし」
水色と黄色のリボンでラッピングされた大きな白い包装紙の包みを受け取りリヴァルは苦笑いする。
「中、開けてもいいか?」
「どうぞ」
見た目よりずしりと重みを感じるプレゼントを、リヴァルはいそいそと開けた。
「お」
「最新の工具セットです。大小様々なボルト、ナットに対応できるよう、アタッチメントタイプで先を取り替えられるようになってます」
中から現れた濃紺の工具箱と工具一式に、ロロが簡単に説明をする。
「思う存分それでバイクをいじろ」
「ルルーシュ、ロロ、サンキューな」
「次はあたしね、あたしのは―――」
こうして和気あいあいと、プレゼントタイムが続いた。
こういったほのぼのした空気は見ているものまで幸せな気分にしてくれる。
「で、リヴァル聞きたい事があるんだけど」
そんな中、誕生日会が始まってからずっと思わせ振りに含み笑いをしていたミレイの一言に、リヴァルだけではなく皆の視線が集まった。
「今日でいくつになったんだっけ?」
何かと思えば。
「やだなぁ会長、何いってるんですか」
「そうですよ〜」
解りきった質問に、皆からどっと笑い声が上がった。
「俺たちロロを除いて会長の一つ後輩なんですよ。18に決まってるじゃないですか」
ルルーシュが呆れた口調で諭す。
何の冗談か知らないが、ミレイにしてはあまりに捻りがない。
だが、ミレイとしては冗談として言ったのではなく、別の意図があったのだ。
「そうよね、18になったのよね〜」
繰り返し確認するその上機嫌な声が微妙に怖い。
少なくともルルーシュにはそう思えた。
「じゃあ、献血行こっか♪」
「何故に!?」
唐突な展開に、ミレイ以外の4人全員が叫んだ。
「18歳になったから」
「や、だから何がどうしてそうなるんですか…?」
話が全く噛み合わない。
誰かこの人の思考回路を通訳してくれ。
この場にいる一同誰もが願った。
「知らないの?献血自体は16歳からだけど、成分献血や400ml献血は18歳からなのよ」
「はあ…」
「あのね、確かに16歳からは200ml献血は出来るんだけど、手術や輸血に使用する量としては少ないの。使う血はね出来る限り少人数のでって言うのが好ましいの」
何故だと思う?と聞かれ、リヴァルもシャーリーもロロも首を横に振る。
「抗体によるリスクを減らすためでしょう」
一人ルルーシュがさも当たり前のことのように言った。
「さっすがルルーシュ♪そうなの。人間って病気になって治ると、その病気に対して免疫が出来て、体内に抗体が出来るのね。それが血液の中にもあって、人の体って自分以外の体液や臓器が自身の体内に入ると敵だと思い込んじゃって、下手すると排除しようとしちゃうわけ。あ、なめたり口に含む程度は大丈夫だから安心してね」
そうミレイは魅惑的なウィンクを一つ落とした。
先程までのお誕生日会の雰囲気はどこにやら。何だかどこぞの教育番組のようなのりなり、皆、すっかり聞き入ってしまっていた。
そんでもってミレイお姉さんのお話は続く。
「それは人間誰だって病気の一つくらいするから、仕方ないんだけど、少しでもそのリスクを抑えるために少人数でより多くの血をって言うのが、昨今の献血の考え方なの」
「へぇー…」
「会長どこからそんな知識を…?」
「全部献血ルームのお姉さんの受け売りなんだけどね」
照れるミレイにリヴァルはそれでも凄いとはやし立てた。
そんな彼のオメデタイその様をルルーシュは半眼で見つめていた。
誉めるのは結構だが、巻き込まれるのは誰でもないリヴァル自身だというのに……。
「それじゃあ、リヴァル行こうか?」
案の定ミレイに腕を掴まれたリヴァルは、ハッとして即座に表情が固まった。
「大丈夫よ、痛いのは最初だけだから」
「え?ま、待ってください!!ご高説は確かに賜ったんですけど、オレ血に弱いんですっ」
必死に逃げようとするリヴァルにミレイは何のことはないとカラカラと笑う。
「男の子ってそういうの多いわよね〜。でもそれは見なければいい話でしょ。自分が当たり前のように持っているもので人助けが出来るのよ。素晴らしいと思わない?」
「それはー…」
会長らしいポジティブで最もな考えに、リヴァルは困り言葉につまってしまう。
「リヴァル昼食とったよね?」
「?はい。2時間前ぐらいに」
「3日以内に何か薬のんだ?」
「いえ、のんでませんけど…」
まるで医師の審問のような問いに、リヴァルは恐々答えていった。
「それは上々。誕生日に献血。良い思い出になるわよぉ」
「会長〜〜〜」
ドナドナよろしく連行されていくリヴァルを見送るその視線は、皆生暖かい。
「大丈夫。ケーキは残しておいて上げるから」
「シャーリイイィ!!」
「頑張れよ」
「ルルーシュっ〜〜…!そうだ会長16歳以上ならオッケーなら、ルルーシュや他の皆もいいんじゃないんですか?」
逃れられないなら、いっそ巻き込んでしまえ。
思い付いたリヴァルは咄嗟にミレイに提案した。
周りの見送る手がぴたりと止まる。
「200mlだって、大事でしょう!?」
じゃなかったら、200mlという献血募集なんてないはずだ。
リヴァルは訴える。
「それは、そうなんだけどね…」
呟き、他3人を見てミレイは目を細めた。
「ごめーん、あたし昨日頭痛薬のんだから」
先に先手をうったのはシャーリーだった。
パンと自身の眼前で手を合わせ、申し訳なさそうに謝る。
「ボクはまだ15だから、パス」
「あれ、そうだっけ?」
「そうだよシャーリー、嫌だな」
怪訝なシャーリーの声に、ロロはにっこり微笑んだ。
「オレは―――…」
「ああ、ルルーシュはいい。連れていく気ないから」
「は?」
何かしら言いかけたルルーシュに、ミレイは口早に言った。
「献血出来る条件の一つに、血液内に含まれる赤血球の数値がある一定をこえないとっていうのがあるのよね。ルルーシュ、それ、満たしていなさそうだから」
「……………」
「ほら、往生際が悪い。リヴァル行くわよ」
「せめて心の準備だけでも〜」
「道すがらしなさい。本当に待ちに待ってたのよね〜。献血仲間がいなくて寂しくて」
パタン。
喧騒は廊下に出ていき、遠く離れていった。
後に残った静寂の中で。
「………プッ」
「シャ、シャーリー笑ったら駄目だよっ」
「だって…」
小声で話す二人ではあったが、その声はしっかりとルルーシュの耳にも届いていた。
…何なんだ?
何なんだこの敗北感は!?
小刻みに震えそうになる肩を理性で抑え込みつつ、ルルーシュは無性に腹が立って仕方がなかった。









よく20歳の献血っていうのありますが、実際は16歳からオッケーだし、献血の種類も18歳から全部出来るようになるわけで。
で、最近は上記でミレイさんが言っていたように、もちろん200mlでも充分有り難いんですが、上記理由で400mlを推奨しているそうです。
因みに赤血球の数値は200mlで12以上、400mlで12,5以上をこえてなければ献血出来ません。
他にも条件があるんですが、それはお近くの献血ルームにて。
と言うことで、献血ルームの回し者ではありませんが、題名のマニアは私です(笑)

小説(学園編)

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