暑かった夏が過ぎ秋も深まるこの季節。程好い日差しが心地良いこの時期の定番の学校行事と言えば―――、

「体育祭よね〜」

いつものメンツがいつも通り揃った生徒会室で現在、会長のミレイを中心に珍しく会議が行われている真っ最中でございます。

「学園全体でおおっぴらに騒げるなんて、良いわよねぇ」

「おおっぴらって、会長はいつも色々やってるじゃないですか」

「そうですよ、いっつもお祭り騒ぎじゃないですか」

「いいの。それはそれこれはこれなの」

ご機嫌なミレイさんを筆頭に、皆和やかな雰囲気でございます。

が、

「はいはい、無駄話はそこまでにして下さいね。さっさと決めていきますから手元の資料を捲ってください」

その中で微妙に温度差がある人物が約一名。
「こういう事は早目に決めておかないと、後々支障が出るんですからね。特に会長が絡むと余計なアクシデントでま・わ・りが苦労するんですから」

生徒会副会長にして会議の進行役のルルーシュ・ランペルージ君が不機嫌さを隠そうともせず、撒き散らかしております。
原因はまあ一目瞭然と言いますか、語るに落ちると言いますか…。

「まあまあ、ルルーシュ。そんなに目くじらたてなくても」

「そうよスザク君の言う通りよ。第一、裏方に徹して種目に参加しないんだからいいじゃない」

言ってから、ねぇ?と他のメンバーにも視線を投げ掛けるミレイさん。
そう、それに対してはすでに本人も含め皆に同意を得て解決済みなのだ。
運動能力がいささか頼りない(?)ルルーシュ君が体育祭と言う体力野郎祭りに難色を示すのはあたり前田のなんとやら。なので直接参加を免除するかわり、準備やらサポート方面にまわってもらう事になったのだが―――。
それなのに何故そんなに不機嫌になっているのか?他のメンバーは不思議で仕方ない。

「…裏方、ね」

皆の怪訝な視線を一身に集めたルルーシュは俯き、ポツリ呟いた。
静まり返る室内。誰もが次の衝撃に備え無言のまま自身の耳をふさぐ。

「どこの世界に一生徒とのデート権を賞品にした体育祭がありますかーーー!!!!」

騒音値を測定したらそのテの大会でいいセンまでイくんじゃね?的な素晴らしい怒声が響き渡った。

「いいじゃない。皆のテンションが上がるんだから」

「だからって俺の人権無視ですかっ!?」

「おふこぉ〜す♪」

「★@×%∬※!!!!」
「…諦めなさいルルーシュ。これが会長よ」

アンタだって充分過ぎるくらい知っている筈でしょう?とカレンにしてはおもっきり珍しく、あからさまな憐憫の情を含んだ瞳で言葉にならない言葉を発するルルーシュの肩を叩いた。
他の面子もそれに同意し、神妙な面持ちで頷く。誰もが下手につついてとばっちりを受けるのはゴメンだと顔に書いてある。
こういう時の友情なんて紙よりも軽いもんである。

「それにさ〜、大体お前だって一度は承諾しただろうが。何を今さらぐずるわけ?」

「うっ…」

その部分を言われると正直ルルーシュも痛いものがある。
そうなのだ。何だかんだ言って本人の了承のもとすでに契約は成立済みなのである。

「そうだよ、男らしくいわよ」

「そうだそうだ」

確かに自分は最初に話を持ちかけられた時に渋々ながらも承諾はした。デートと言っても校内でせいぜい一緒に食事とか放課後を過ごすぐらいの微笑ましい内容に制限しとくからと説明をされ、まあそのくらいならと首を立てにふったのだ。

―――その時点では。

「…なら言わせてもらいますけどね」

楽しげにヤジを飛ばすミレイとその仲間たちに向かって、ルルーシュはそれはそれは素敵な笑顔(目は笑っていない)で一枚のポスターを取り出した。
ちなみに同ポスターは印刷されすでに学校中に配布済みである。

「?体育祭の開催のポスターじゃない」

これがどうかした?とルルーシュを窺い見るミレイに、ルルーシュは無言である一点を指差した。

「『―――最優秀個人賞に輝いた生徒には賞品として生徒会副会長こと、ルルーシュ・ランペルージ君との一日デート権が与えられます!!』って、…これが何なのよ?」

「だから、その下ですよ!!」

「…『勉強を教わるもよし膝枕で耳掻きもよし、煮てよし焼いてよしお触り全然オッケー(ただしBまで)!!』……」

不自然に目を逸らすミレイに代わり、下のパッと見ではうっかり見落としてしまいそうなほど小さい文字をニーナが読み上げた。
Bと言うのがささやかな良心(?)な気もしないでもないが、場に流れる何とも言えない空気に当事者以外の全員が沈黙する。

「何なんですか、このピンクチラシみたいなあおり文句は!?」

「………ノリ?」

バンと机にポスターを叩きつけたルルーシュにミレイが可愛らしく小首を傾げる。

「のり?」

「ノリ」

「どこの悪徳業者ですかっ、アンタはああぁぁぁ!!!!」

説明も人の許可もなしにノリで勝手に付け加えるなんて、たまったもんじゃない。
これに怒れなければ何に怒れようか。

「クーリングオフですっ、クーリングオフ!!」

「まあまあ。事後報告になっちゃった事については謝るから。落ち着いて、ね?ルルーシュ」

「どこに落ち着ける要素がありますか!?」

謝ると言いつつ、あまり悪びれた様子のないミレイにルルーシュが更に食って掛かろうとするが、次の言葉でその動きが止まった。

「大丈夫よ。ちゃんと対策は練ってあるんだから」

「対策?」

「や〜ね〜、私がそんな本気で人を身売りするような真似すると思う〜?」

ええ、とても。
朗らかに笑う女王様を前にルルーシュは言外に力一杯頷いたのは言うまでもない。
そしてそれは口に出さない代わりに顔にもしっかり出ていたのだが、そんな事で女王様が臆するわけがない。

「ようは最優秀個人賞を誰にもとられなければいいわけよ」

「はあ?」

「何てったって主催者は『生・徒・会』だしね」

「…………」

今、会長の背に黒いものが見えました。

「権力は使ってこその権力よね〜♪利用出来るものはしっかり利用しないと。ね、ルルーシュ?」

「…はあ…」

「は〜い、そんじゃ副会長の許可も得たことだし、体育祭の種目決めるわよ〜♪」

意味深な視線でルルーシュを見やり、ミレイは手元にあった最初にルルーシュが配った資料を捲り始めた。
その姿を腑に落ちない面持ちでルルーシュが見つめる。
確かに自分の身の安全を考慮し、真面目に話し合いをしてもらえるのは有り難い事のだけれど…。
何かが釈然としないのは気のせいだろうか?

「……ん〜、この参考にある前年度までの種目では駄目ね。もっとインパクトかつ難攻不落なものにしないと。リヴァル頼んでた資料持ってきてくれた?」

「はいはい。『全世界面白祭り特集』の本ですよね?用意しましたよ」

「ありがと。シャーリィーは?」

「はいこれ。『びっくり世界記録人間』の詳細リストです」

「ご苦労様。さあ忙しくなるわよ〜」

二人から提出された資料を手にミレイは心底楽しそうに言った。

「ルルーシュのために最優秀個人賞をとられないように難易度を上げて、でもってそれがばれないようにインパクトがあって盛上がる種目を考えなきゃなんないからね」

自分のためと言われても、ルルーシュの目にはミレイが個人の楽しみのために動いているようにしか見えない。
しかし、先の話から下手に口を出す事も今のルルーシュには出来なかった。

「…も、もしもの時は僕が最優秀個人賞頑張ってとるから」

「スザク…、ありがとな」

楽しそうに話し合う面々を黙って見守るしかないルルーシュには、スザクの気づかいが何だかとっても有り難かった。









つまり全ては計画的犯行って事でw
どこまでいってもミレイ様の一番の被害者はルルーシュさんでございますm(__)m

小説(学園編)

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